正当化の証拠はたくさんあるが,もっとも印象深いもの----きっともっとも変わったもの----は神経科学者マイケル・ガッザニガによるいわゆる分離脳の患者を用いた一連の実験である。通常は,左右の脳半球はつながっていて,指示を出し合って連絡を取っているが,強度の癲癇の治療の一つでは両者を分断する。分離脳の患者の体は驚くほど健全に機能するが,2つの脳半球が異なる種類の情報を扱うため,それぞれの脳半球は,他方の脳半球が気づいていないことを知ることができるということに科学者が気づいた。この影響は,どちらか一方の目だけに文書による指示を見せる実験で人為的に誘発することができる。ガッザニガは,ある実験で,この手法を用いて分離脳の患者の右脳に立ち上がって歩くように指示した。次に,ガッザニガは,なぜ歩いているのかとその男に口頭で尋ねた。このような「理由」を尋ねる質問は左脳が扱う。そして,このときの左脳は本当の答が何であるかまったくわからなかったにもかかわらず,その男はソーダ水を取りに行こうとしていたと即答した。状況を変えた実験でも常に同じ結果が得られた。つまり,左脳は何が起きているかわからないと認める代わりに,素早く巧妙に説明をでっち上げた。そして,答を口にした本人は,すべて本当だと思っていた。
ダン・ガードナー 田淵健太(訳) (2009). リスクにあなたは騙される:「恐怖」を操る論理 早川書房 pp.106-107
(Gardner, D. (2008). Risk: The Science and Politics of Fear. Toronto: McClelland & Stewart Inc.)
(注:M.S.Gazannigaは通常,「ガザニガ」と表記することが多い)
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