読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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では,生徒に粘り強い行動をさせるにはどうしたらいいのか?ファリントンが調査から引き出した結論によれば,「学業のための粘り強さ」の背後にあるカギは,「学業のためのマインドセット(心のありよう)」,つまり子どもたちそれぞれの姿勢や自己認識である。ファリントンは生徒のマインドセットに関する大量の研究から,カギとなる四つの信念を抽出した。生徒たちの教室でのがんばりに最も大きく貢献する信念である。
(1)私はこの学校に所属している。
(2)私の能力は努力によって伸びる。
(3)私はこれを成功させることができる。
(4)この勉強は私にとって価値がある。
生徒たちが授業中にこの信念を持っていられれば,そこで出くわす課題や失敗を乗り越えられる。この信念がなければ,最初の困難がちらりと見えたところであきらめてしまうかもしれない。
ポール・タフ (2017). 私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み,格差に挑む 英知出版 pp. 109
ファリントンの答えは「学業のための粘り強さ」だ。生産的な「学業のための行動」を長いあいだ維持できる性質である。ファリントンの主張によれば,「学業のための粘り強さ」を持った生徒が他の生徒とちがうのは,失敗からすぐ立ち直る力を持っている点だ。何回かテストで失敗しても,教室で懸命に勉強することをやめない。複雑な課題に悩んだり,混乱したときも,ただあきらめるより,問題を解くための新しい方法を探す。ファリントンのいう「学業のための粘り強さ」には,グリットや自制心や,楽しみを先送りにする力のような非認知能力が含まれる。しかしそうした性格上の特質とちがって,生徒の「学業のための粘り強さ」は状況に大きく左右される,とファリントンは書く。10年生のときに学校でがんばってやり通した生徒が,11年生ではやり通せないかもしれない。数学の授業はがんばれても,歴史の授業は駄目かもしれない。火曜日にはがんばれても,水曜日はだめかもしれない。
ポール・タフ (2017). 私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み,格差に挑む 英知出版 pp. 107-108
この瞬間,つまり内なる満足のためでなく,何かべつの結果のために行動しなければならなくなった瞬間に,「外発的動機づけ」が重要になる。デシとライアンによれば,こうした外発的動機づけを自分のうちに取り込むようにうまく仕向けられた子供は,モチベーションを徐々に強化していけるという。ここで心理学者は,人が求める三つの項目に立ち戻る。「自律性」「有能感」「関係性」である。この三つを促進する環境を教師がつくりだせれば,生徒のモチベーションはぐっと上がるというわけだ。
では,どうやったらそういう環境をつくりだせるのか?デシとライアンの説明によれば,生徒たちが教室で「自律性」を実感するのは,教師が「生徒に自分で選んで,自分の意志でやっているのだという実感を最大限に持たせ」,管理,強制されていると感じないときである。また,生徒が「有能感」を持つのは,やり遂げることはできるが簡単すぎるわけではないタスク――生徒たちの現在の能力をほんの少し超える課題――を教師が与えるときである。さらに,生徒が「関係性」を感じるのは,教師に好感を持たれ,価値を認められ,尊重されていると感じるときである。デシとライアンによれば,この三つの感覚には,机いっぱいの金の星や青いリボンよりも,はるかに動機づけの効果があるという。
ポール・タフ (2017). 私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み,格差に挑む 英知出版 pp. 91
これに反して,デシとライアンはこう論じた。私たちは多くの場合,自分の行動が生む表面的な結果ではなく,その行動によってもたらされる内面的な楽しみや意識を動機として決断を下す。二人はこの現象を「内発的動機づけ」と名づけた。さらに二人は,人が求める三つの鍵を見極めた――「有能感」「自律性」「関係性(人とのつながり)」である。そしてこの三つが満たされるときにかぎり,人は内発的動機づけを維持できると述べた。
ポール・タフ (2017). 私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み,格差に挑む 英知出版 pp. 88
現在,私はつぎのように考えている。
大変な努力を要する「意図的な練習」を行うには,「うまくなりたい」という強い意欲が最大の動機となる。あえて自分の現在のスキルを上回る目標を設定し,100%集中する。自分の理想,すなわち練習前に設定した目標に少しでも近づくために,言わば「問題解決」モードに入って,自分のあらゆる行動を分析する。フィードバックをもらうが,その多くはまちがっている点を指摘するものだ。指摘を受けて調整し,また挑戦する。
いっぽう,フローのときに優勢なのは,まったく別の動機だ。フロー状態は本質的に楽しいもので,スキルの細かい部分が「しっかりとうまくやれているか」など気にしない。よけいなことはなにも考えず,完全に集中しており,「問題解決」モードとはかけ離れた状態だ。自分の行動をいちいち分析せずに,無心で没頭している。
そういうときは挑戦すべき課題と現在のスキルが釣り合っているため,フィードバックも,よくできた部分を指摘されることが多い。自分を完全にコントロールできているように感じ,実際そのとおりになっている。気分が高揚し,時間の観念を忘れてしまう。全速力で走っていても,頭をフル回転させていても,フロー状態にあるときは,なにもかもすんなりとラクに感じられる。
言い換えれば「意図的な練習」は準備の段階で,フローは本番で経験するものだと言える。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.186-187
ところが,実際にインタビューで話を聞いてみると,ほとんどの人は「これだ」と思うものが見つかるまでに何年もかかっており,そのあいだ,さまざまなことに興味をもって挑戦してきたことがわかった。いまは寝ても覚めても,そのことばかり考えてしまうほど夢中になっていることも,最初から「これが自分の天職だ」と悟っていたわけではなかったのだ。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.142
では,若い人たちに「自分が本当に好きなことをしなさい」とアドバイスするのは,バカげたことなのだろうか?じつはこの問題については,「興味」を研究している科学者たちが,この10年ほどで最終的な結論に達した。
第一に,人は自分の興味にあった仕事をしているほうが,仕事に対する満足度がはるかに高いことが,研究によって明らかになった。これは約100件もの研究データをまとめ,ありとあらゆる職種の従業員を網羅したメタ分析による結論だ。
たとえば,抽象的な概念について考えるのが好きな人は,複雑なプロジェクトを緻密に管理することは楽しいとは思えない。それよりも数学の問題を解くほうがずっといい。また人との交流が好きな人は,一日じゅうひとりでパソコンに向かっているような仕事は楽しいとは思えない。それよりも営業職や教職などのほうが活躍される。
さらに,自分の興味に合った仕事をしている人は,人生に対する全体的な満足度が高い傾向にあることがわかった。
第二に,人は自分のやっている仕事を面白いと感じているときのほうが,業績が高くなる。これは過去60年間に行われた,60件の研究データを集計したメタ分析による結論だ。自分の本来の興味に合った職種に就いている従業員たちは,業績もよく,同僚たちに協力的で,離職率も低いことがわかった。また,自分の興味に合った分野を専攻した大学生は,成績が高く,中途退学の確率も低いことがわかっている。
もちろん,ただ好きなことをやっているだけでは仕事は手に入らない。ゲームの「マインクラフト」がいくら得意でも,それだけで生計を立てるのは難しい。それに世のなかには,多くの選択肢から好きな職業を選べるような恵まれた状況にない人もたくさんいる。私たちが生計を立てる手段を選ぶにあたっては,かなりの制約があるのが実情だ。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.140-141
1.「やり抜く力」や「才能」など,人生の成功に関わる心理学的な特徴は,遺伝子と経験の影響を受ける。
2.「やり抜く力」をはじめ,いずれの心理学的な特徴についても,その遺伝に関係する遺伝子はたったひとつではない。
そして,つぎの重要なポイントも加えておきたい。
3.遺伝率の推定値を見れば,形質の発現のしかたは人によってさまざまであることがわかるが,「平均」がどれだけ変化しているかは,遺伝率を見てもわからない。
たとえば,身長の遺伝率は多様性を示唆しており,一定の集団内でも,背の高い人もいれば低い人もいることを示している。しかし,人びとの「平均身長」がどれだけ変化したかについては,何の情報も示していない。
このことは,「環境」が私たちに与える影響がきわめて大きいことを示すエビデンスであり,非常に重要である。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.119
実際,重要度の低い目標をあきらめるのは悪いことではなく,むしろ必要な場合もある。ほかにもっとよい実行可能な目標があるなら,ひとつの目標だけにいつまでも固執するべきではない。また,同じ目標を目指すにしても,いまの方法よりもっと効率的な方法や,もっと面白い方法があるなら,新しい方法に切り替えるのは理にかなっている。
どんな長い道のりにも,回り道はつきものだ。
しかし,重要度の高い目標の場合は,安易に妥協するべきではない。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.108
そう言ってバフェットは3つのステップを説明した。
1.仕事の目標を25個,紙に書き出す。
2.自分にとってなにが重要かをよく考え,もっとも重要な5つの目標にマルをつける(5個を超えてはならない)。
3.マルをつけなかった20個の目標を目に焼きつける。そしてそれらの目標には,今後は絶対に関わらないようにする。なぜなら,気が散るからだ。よけいなことに時間とエネルギーを取られてしまい,もっとも重要な目標に集中できなくなってしまう。
この話を聞いたとき,私は思った。仕事の目標が25個もある人なんているんだろうか?いくら何でも多すぎでは?
そこで実際に,自分のいまの目標(あるいは携わっているプロジェクト)を罫線入りのメモ用紙に書き出してみた。長々と続くリストは,気がつけば32行にもなっていた。それで納得したのだ。なるほど,これは役に立つかもしれない。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.95
さらに,私は「スキル」と「成果」のちがいも付け加えたい。
努力をしなければ,たとえ才能があっても宝の持ち腐れ。
努力をしなければ,もっと上達するはずのスキルもそこで頭打ち。
努力によって初めて才能はスキルになり,努力によってスキルが生かされ,さまざまなものを生み出すことができる。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.78
「才能」とは,努力によってスキルが上達する速さのこと。いっぽう「達成」は,習得したスキルを活用することによって表れる成果のことだ。
もちろん,優れたコーチや教師との出会いなどの「機会」に恵まれることも非常に重要だ。むしろ個人的などの要素よりも,そちらのほうが重要かもしれない。
しかし私の理論では,そのような外的要因や「幸運」は考慮しない。私の理論はあくまでも「達成の心理学」に関する理論であり,成功要因は心理学的なものだけではない以上,不完全なものだ。
だが,それでも役に立つと考えている。この理論が示しているのは,複数の人びとが同じ状況に置かれた場合,各人がどれだけのことを達成できるかは,「才能」と「努力」のふたつにかかっているということだ。
「才能」すなわち「スキルが上達する速さ」は,まちがいなく重要だ。しかし両方の式を見ればわかるとおり,「努力」はひとつではなくふたつ入っている。
「スキル」は「努力」によって培われる。それと同時に,「スキル」は「努力」によって生産的になるのだ。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.70-71
言い換えれば,「天賦の才を持つ人」を神格化してしまったほうがラクなのだ。そうすれば,やすやすと現状に甘んじていられる。私自身,教師生活の初めのころを振り返ってみると,まさにそうだった。「才能」のある生徒しかよい成績は取れないと思い込み,そのように指導したせいで,生徒たちも,私も,「努力」の大切さを深く考えることがなかった。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.66
「新しい従業員を雇うとします。知的能力が高いことと,勤勉であることでは,どちらのほうが重要だと思いますか?」
この場合,「勤勉であること」と答える人は,「知的能力が高いこと」と答える人の5倍近くにものぼる。
こうした調査結果は,心理学者のチアユン・ツァイがプロの音楽家を対象に実施したアンケート調査の結果とも一致している。音楽家たちも,同様の質問に対してほぼ例外なく,「生まれながらの才能」よりも「熱心に練習すること」のほうが重要だと回答した。
しかし,ツァイがある実験でもっと間接的な方法によって人びとの心理的傾向を調査したところ,正反対の結果が表れた。その実験では,参加者(やはりプロの音楽家たち)に対し,同等の実績をもつ2名のピアニストのプロフィールが紹介された。つぎに参加者たちは,その2名のピアノ演奏を収録した短い録音を聴きくらべた。しかし実際には,あるひとりのピアニストが,同じ曲のべつの部分を演奏している。
参加者にとって明らかな唯一の相違点は,2名のピアニストの紹介のしかたにあった。ひとりは「才能豊かで,幼少時から天賦の才を示した」とあるいっぽう,もうひとりは「努力家で,幼少時から熱心に練習し,粘り強さを示した」とあった。
するとこの実験では,先ほど紹介したアンケート調査の結果(才能よりも努力が重要)とは矛盾する結果が出た。音楽家らは,「天賦の才」に恵まれたピアニストのほうが,プロの演奏家として成功する確率が高いと評価したのだ。
アンジェラ・ダックワース 神崎朗子(訳) (2016). やり抜く力―人生のあらゆる成功を決める「究極の力」を身につける ダイヤモンド社 pp.43-44