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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「社会一般」の記事一覧

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儲かるトレーディングとは

 儲かるトレーディングとは市場の不完全性によって成立する。そうした不完全性が蔓延しうるのは,他の投資家たちがすウィンガーよりも情報を受け取るのが遅かったり,情報から誤った結論を引き出したり,または決断を実行に移すのが遅かったりする場合があるからである。事実の認知や理解がゆっくりと起きることが,混沌ではなくトレンドを生み出す原因である。
 単に広範囲に分散投資したポートフォリオを買持ちにしたままでおくよりも,プロたちはアクティブに投資することによって成功を収めることができると主張している。なぜならば,彼らはノイズからトレンドを峻別でき,新しい情報をアマチュアよりもよく解読することができるからだという。それに,彼らは機転のきくブローカーやアナリストに常に耳を傾けているフル・タイムのプレーヤーであるから。プロたちは他の人々に先駆けて行動を起こして打ち負かすことができる自信を持っている。
 アレクサンダーはこの見解を,将来の価格変化を予想するにはコインを投げるのが最善の方法である,と主張する学者たちの見解と対比する。期待収益がゼロであるということは,価格はランダムに動くであろうということを意味している。しかし,そうした価格は予測不可能である。

ピーター・L・バーンスタイン 青山護・山口勝業 (2006).証券投資の思想革命(普及版) pp.160-161
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社会の富裕化に伴い失業率は伸びる

 ここで言いたいのは,仕事を選り好みするな,ということではない。本当に食うに困る状況にまでなれば,目の前にある仕事に何でも就くようになるのだろうが,ある程度余裕がある状態だと,人は,仕事を選ぶ。それはむしろ自然なことである。したがって,社会の富裕化に伴い,構造的失業率は上昇していく。

海老原嗣生 (2009). 雇用の常識「本当に見えるウソ」 数字で突く労働問題の核心 プレジデント社 p.134

まずは就職してみる

 人材サービスに関わる人が必ず言うのは,「高望みしないで,まずは就職してみる」ということだ。無名の企業でも,入社するとけっこう良かった,という場合が多々ある。そして,そういう無名企業は人材層も厚くはないから,同期や若手社員の中で目が出るのも早いだろう。2,3年してその会社にどうしても飽き足りないなら,大手へ第二新卒転職を考えればいい。大手よりも自由・伸び盛りの「当たり」企業で長居できたら,なおよいだろう。

海老原嗣生 (2009). 雇用の常識「本当に見えるウソ」 数字で突く労働問題の核心 プレジデント社 p.110

能力主義≠成果主義

 こういう論をかざす人たちは,能力主義の意味がわからず,言葉の響きから,「能力主義=成果主義」と思い込んでいるフシがある。能力主義は日本オリジナルな人事制度であり,もう40年も前から国内の多くの企業に浸透してきた。「能力は積み重なるものだから,年とともにアップする」という考えのもと,給与は年齢を重ねるに伴い上がりこそすれ下がることはなく,その結果,企業は人件費増大に悩んできた。そこで,能力だけでなく成果も給与の算定に組み込み,それにより,「業績と給与の帳尻が合う仕組み」として,90年代後半に成果主義が浸透し始めたのだ。

海老原嗣生 (2009). 雇用の常識「本当に見えるウソ」 数字で突く労働問題の核心 プレジデント社 pp.33-34

多様化しているだけ

 いま,日本の水産物の輸入の中心は,エビ・カニ,サケ・マス,マグロといった高級食材です。動物性タンパク質を補給するための水産物というより,美味しいものを楽しむために贅沢品として水産物を輸入しています。
 タラやイトヨリのすり身といった水産加工品の材料もかなり輸入していますが,年間1兆7000億円ほどの水産輸入額のうち,半分くらいのお金をエビ,カニ,マグロ,ウナギを買うために使っています。
 日本で魚の消費量が減ってきているのは事実ですが,それを「魚離れ」と呼び,大きな問題であると捉えるよりは,むしろ「どんな食べ物でも手に入るようになったことで,魚も1つの選択肢となり,消費量も一定のレベルに落ち着こうとしている」と考えるほうが自然です。

川島博之 (2009). 「食料危機」をあおってはいけない 文藝春秋 p.57

良いものはいずれ悪くなるはず

 それにしても,「今調子が良いもの」にみんながむかうのはどうしてなのだろう?今良いものは,いずれは悪くなるものなのに,今調子が良い会社に就職希望者が殺到する。不思議な光景である。
 おそらく,「勝ち取った」という満足感を得たいのか,あるいは,「自慢ができる」という優越感が欲しいのか,そういうものが動機だろうとは想像するけれど,しかし自分の将来を,そんな些末な(他者に対する見栄のような)動機で決めてしまうのは,本当にもったいないことだと僕は考えてしまう。いかがだろう?

森博嗣 (2009). 自由をつくる 自在に生きる 集英社 pp.118-119

それは自由ではない

 本来,自分の時間は自分のためにある。何をするかは自由なはずだ。
 しかし,ブログを書くことが日常になると,ついブログに書けることを生活の中に探してしまう。人が驚くようなものを探している。写真に撮って人に見せられるものを見つけようとしている。たとえば,1年かけてじっくりと考えるようなもの,10年かけなければ作れないようなもの,そういった大問題や大作ではなく,今日1日で成果が現れるような手近な行為を選択するようになるのだ。
 知らず知らず,ブログに書きやすい毎日を過ごすことになる。
 これは,「支配」以外のなにものでもない。人の目を気にし,日々のレポートに追われるあまり,自分の可能性を小さくする危険がある。十分に気をつけたほうが良いだろう。

森博嗣 (2009). 自由をつくる 自在に生きる 集英社 p.53

フラット化された社会は不公正

 フラット化された情報社会は,必ずしもすべての人に等しく,価値のある情報を恵み与える存在ではない。むしろ不公正であり,能力ある者は有益な情報を得て栄え,生かせない者は塔の底辺で這いつくばる。情報が先鋭化するほどに,人々は細分化されセグメント化されて孤立化し,フラット化が進んでお互いに対立するホッブズ的な「万人の万人に対する闘争」状態となる。

山本一郎 (2009). ネットビジネスの終わり:ポスト情報革命時代の読み方 PHP研究所 p.181

分断された情報による無知の牢獄

 専門とされる情報量が増大することで,その専門を修めるための学習は常に長くなり,他の専門との相関を作り上げることは極めて困難となる。情報化社会は知的労働者の楽園となるはずが,実際に起きていることは分断された情報による無知の牢獄のようなものである。
 マウスひとつ動かせばあらゆる情報にコンタクトできる社会は,実際のところ自分の知りたい情報をいつまでも引き出せる無限の扉であって,知らなくて済む情報からはいつまでも隔絶され続ける社会でもある。

山本一郎 (2009). ネットビジネスの終わり:ポスト情報革命時代の読み方 PHP研究所 pp.179-180

半年間ROMれ

 ネットでは,新参者が見当違いの質問をすること自体が忌避され,「半年間ROMれ」,つまりログを読んで必要な知識を得てから発言しろ,と言われる。そこに新たな知識を求めた人々を受け入れる寛容の精神はあまり存在しない。これら人間の争いを遥か下に眺め,知識を神のいる天に届くまで積み上げるデータベースは,人間が知識労働をするために必要な専門知識の量を極大化し,塔を登ることができる人と,そうでない人との埋めがたい差をはっきりさせてしまったのだ。
 そして,高い専門性同士は,往々にして激しくその対立を引き起こす。他の専門性が持つ情報の価値を,理解できなくなるからだ。広く国民が知るべき普遍的な情報は狭くなり,共通の知識としてその教養を磨き,人としての知的誠実さを示す土壌は細りつつある。そもそも共通の知識というものが社会の中ではお手軽なものとして検索して知って済ませる構造に埋め込まれてしまっているからだ。

山本一郎 (2009). ネットビジネスの終わり:ポスト情報革命時代の読み方 PHP研究所 p.177

情報化社会になって

 私たちは,過去に暮らしたあらゆる人々よりも,遥かに豊富で大量で良質の情報を居ながらにして得られる恵まれた環境にあるはずだ。しかし,それら先人の暮らしより遥かに文明的で安全であることは差し措いても,どれだけ幸福な生活を送ることが可能となっただろうか。情報通信の技術革新が,私たちの抱える問題を直接解決してくれる技術ではなかったとしても,その一助となっているのであれば,私たちの社会はもっと協調的で穏やかで安寧に満ちたものになっていたはずである。
 実際には,各人の利害は情報技術の進展によってより先鋭化し,競争は激化し,対立構造が顕著になっている。所得の大小で経済格差が拡大していると喧伝されたり,エリート教育をめぐる是非,老人と若者の世代間対立といった,社会の土台における対立構造だけではない。ワードショーで語られる犯罪者のプロファイルでは,その個人がオタク的小児性愛趣味を持っていたというだけでゲームやアニメが悪者に仕立て上げられる。これは,視聴者がこれらの属性を持たず,遠い存在であるから平気で叩けるのである。社会の中で,遠くにあるものが常に脅威として映し出され,同じ共同体の中で暮らす同志としての帰属意識は,社会問題を考える上であまり表出されることがない。
 情報化社会が進展したにもかかわらず,私たちが生きていく上での見通しは曖昧模糊とした茫洋のただ中にある。下手をすると,隣人がどのような人々であるかすら知らない。手を伸ばせば情報を得ることができるにもかかわらず,日常に氾濫する情報の海の中で,身の回りのことすらろくに知ることのない現代人が量産されているのが実状ではないだろうか。

山本一郎 (2009). ネットビジネスの終わり:ポスト情報革命時代の読み方 PHP研究所 pp.144-145

専門家は厚かましく

 他の分野でもそうだけれど,典型的な子育ての専門家はやたらと自信たっぷりな言い方をする。彼らはどちらかの立場に与して自分の旗を高々と掲げる。この問題にはいろいろな側面があって,なんてことは言わない。条件とかニュアンスとか,そういうものの臭いがすることを言う専門家の話なんて誰も聞いちゃくれないからだ。自分が編み上げた平凡な説を通念に押し上げるなんて錬金術をやろうと思ったら,専門家はあつかましくやらなければいけない。それには一般の人たちの感情に訴えるのが一番だ。感情は筋の通った議論の天敵だからである。感情に関して言えば,そのうち一つ——恐れ——は他よりとくに強力だ。凶悪殺人鬼。イラクの大量破壊兵器。BSE(牛海綿状脳症)。幼児の突然死。専門家はまずそういう怖い話で私たちを震え上がらせる。意地の悪い叔父さんがまだ小さな子にとても怖い話をするみたいに,そうしておいてアドバイスをするから,とても聞かずにはいられない。

スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 p.175

中絶の合法化と犯罪

 言い換えると,アメリカで何百万人もの女性に中絶を決心させた要因は,そうした人たちの子供が,もしも生まれていたら不幸せな人生を送り,たぶん罪を犯していただろうと予測する要因そのものでもあるようなのだ。
 実際,アメリカでは中絶の合法化がさまざまな結果を招いた。子殺しが劇的に減った。できちゃった結婚も減ったし,養子に出される赤ん坊の数も減った(代わりに外国で生まれた赤ん坊を養子にするのがはやった)。妊娠は30%近く増え,一方出産のほうは6%減った。つまり,女性たちは中絶を産児制限の方法として使い始めたわけだ。さしずめ,荒っぽくも劇的な保険といったところなんだろうか。
 もで,中絶合法化がもたらした一番劇的な効果が現れるまでには何年もかかった。犯罪への影響だ。1990年代の初め,「ロー対ウェイド」裁判の後に生まれた最初の世代が10代後半になるころ——つまり,若い男の子たちが一番犯罪者になりやすい年代になるころ——犯罪発生率は下がり始めた。この世代に欠けていたのは,もちろん,犯罪者になる可能性が一番高い子供たちだ。そして,子供をこの世に連れて来たくなかった母親の子たちが欠けたこの世代全体が成年になるにつれて,犯罪発生率は下がっていった。望まれない子供はたくさんの犯罪を引き起こしていた。中絶の合法化で望まれない子供が減ったのだ。中絶の合法化は,そうして,犯罪の減少をもたらした。

スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 pp.164-165

中絶禁止の影響

 1966年のルーマニアにもう一度戻ってみよう。何の前触れもなく突然に,ニコラエ・チャウシェスクは中絶を禁止すると宣言した。中絶禁止以降に生まれた子どもたちはそれ以前に生まれた子どもたちより犯罪者になる可能性がずっと高かった。なぜだろう?他の東欧諸国やスカンジナビア諸国の,1930年代から1960年代のデータを調べても同じような傾向が現れる。ほとんどの場合,中絶は全面的に禁止されてはいなかったが,中絶を受けるためには裁判所から許可を取らなければならなかった。中絶を却下された女性は子供を愛せなかったりいい家庭環境を作れなかったりする場合が多かったのを研究者たちが発見した。所得や年齢,教育,母親の健康といったデータを調整してもなお,そういう子供は犯罪者になる可能性がとても高いことがわかったのだ。

スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 pp.161-162

資本主義企業と同じ構造

 言い換えると,クラック売人ギャングの仕組みは普通の資本主義企業とほとんどおんなじ:でっかく稼ぐにはピラミッドのてっぺん近くにいないとダメだ。社員はみな家族とか言ってる経営者のタテマエと全然違って,ギャングの給料は企業社会と変わらないぐらい偏っている。歩兵はマクドナルドでハンバーグをひっくり返してる人やウォルマートで棚を並べ替えてる人といろんな意味でそっくりだ。実際,J.T.の歩兵はだいたいみんな,違法な仕事のしょぼい稼ぎを補うために,まっとうな業種で最低賃金レベルの仕事もやっている。別のクラック売人ギャングのリーダーは,歩兵にもっと払ってもやっていくのは簡単だけどそれは賢いやり方ではないと語っている。「ええか,ワシの仕事を狙っとるニガーを山ほど抱えとるわけよ」と彼は言っていた。「そりゃまああいつらの面倒はみてやらんといかんけど,ボスはワシやっちゅーのをたたき込んでやらんといかんのや。まずワシがワシの取り分を取らんと,ワシはもうボスやのうなってしまう。ワシが損かぶったりしたら,あいつらワシをヘタレのクソったれじゃと思いよるからな」。

スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 pp.

知らないことを知っているから専門家

 専門家ってやつはどいつもこいつも自分の持っている情報を利用して人をひどい目に遭わせようとしてるんだって思ったなら,あなたは正しい。専門家はあなたが知らない情報を知っているからこそ専門家なのだ。彼らの作戦はとても手が込んでいて,あなたはせっかく情報を持っているのにどうしていいかわからなくなっているかもしれない。あるいは,彼らのノウハウに感動してもう楯突く気もなくなっているのかもしれない。医者に血管形成をしておいたと言われれば——最近の研究によると,血管形成には心臓発作を防ぐ効果はほとんどないようだけれど——医者が自分の持つ情報優位を利用して自分か自分の友人に数千ドルほど稼がせたなんて思わないだろう。しかし,テキサス大学サウスウエスタン医療センターの心臓内科の専門家デイヴィッド・ヒルズが『ニューヨーク・タイムズ』に語ったように,医者も,車のディーラーや葬儀屋さんや運用会社と同じ経済的インセンティブを持っている。「あなたは心臓内科医で,町で内科をやっているジョー・スミスがあなたのところに患者を送り込んできたとする。彼らに治療しなくても大丈夫だと言ったとしたら,ジョー・スミスは2度とあなたのところに患者を連れてこないだろう」。

スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 pp.79-80

スモールワールドの利点

 迅速で効率的な信号の伝達は,スモールワールドの構造がもたらしてくれるもっとも単純かつ明白な利点である。けれども,もう1つ別の利点がある。マーク・グラノヴェターが指摘したように,社会のネットワークでは,親友の集団内で絆が緊密に集まっているということは,たとえそのうちの数人がネットワークから離れても他の人たちはまだ密接なつながりを保っていることを意味する。別の言い方をすれば,クラスター化したネットワークでは,1つの要素の喪失が引き金となってネットワークの劇的な崩壊が起こり,つながりのないバラバラの断片になってしまうことはないのである。脳の内部でもこうした組織的構造が有効な役割を果たしているかもしれないと考えられる。というのは,ある特定の部位が損傷を受けたり破壊されたりしても,信号を駆けめぐらせて他の部位と協調する能力にはほとんど影響が見られないからだ。たとえば,ブロカの中枢に損傷を受けた患者は人が話す言葉を理解することはできないが,聞き取ることは完璧にできるし,計算や将来の計画の立案をなんの苦労もなくおこなうことができる。もしも,この部位へのダメージによって,たとえば視覚野と海馬との連絡も断ち切られてしまうとか,あるいは,少なくとも信号がある部位から他の部位に行くのに長い距離を通らざるをえなくなってしまうのなら,視覚情報の短期的億も損なわれてしまうだろう。スモールワールドの構造形式は,このような事態になるのを防いでくれているように見える。スモールワールドの構造のおかげで,脳は効率的で機敏なだけでなく,欠陥をものともしない能力も獲得したのだ。

マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.100-101
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)

実際に弱い絆は役に立つ

 さて,橋渡しをする弱い絆が社会のネットワークにおいてきわめて重要なら,弱い絆は人脈を作るうえでも決定的に重要と考えられるかもしれない。仕事を探しているとき,親友に話したほうがうまくいく公算が大きいだろうか?それとも遠い知り合いに話したほうがいいのだろうか?有能な社会学者グラノヴェターは,答えをあれこれ考えるだけでは飽きたらず,答えを見つけるための独創的な調査方法を考案した。彼は縁故によって最近職を得た多数の人に聞き取り調査をした。それぞれのケースについて,彼らがどのようにして仕事を見つけたのかを尋ね,さらに,雇い主にコネをつける仲立ちをした縁故者とどんな関係だったのかを調べた。素朴に考えれば,強い縁故のほうが重要なはずだと思うだろう。なんといっても,友人のほうが人となりをよく知っているし,しょっちゅう会ってもいるし,親身になって助けてくれるからだ。
 けれども,グラノヴェターの聞き取り調査では,対象者のうちの16パーセントが「しょっちゅう」会っている人のつてで仕事を得たのに対し,84パーセントの人は「時たま」あるいは「ごくまれに」しか会わない人のつてで就職していた。職を得た人たちがネットワークに送りだした情報——私は仕事を探していますという意思表示——は,強い絆ではなく,むしろ弱い絆を通って伝わっていくことで,より効果的に,そしてより大勢の人に広がったらしい。このことはかなりはっきりと説明できるように思われる。親友に打診するのはたしかに簡単だが,ニュースはあまり遠くには広がらない。親友たちは互いに共通の知人をもっているから,彼らの多くはすぐに,そのニュースを2度3度と聞くことになるだろう。しかし,自分が何を必要としているかを,たとえば遠くにいて1度も会ったことのない親戚など,あまり親密でない知人に広めれば,少なくともそのニュースはより広くいきわたる可能性がある。ニュースは自分が属す社会集団を閉じこめている境界を越えて流れ出し,きわめて大勢の人々の関心をひくのだ。「個人の観点からすれば,弱い絆は重要な財産なのである」とグラノヴェターは結論している。

マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.65-66
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)

子どもをもつことの意味の変化

 10人の子どもは,18世紀のフランスでは天の恵みだったかもしれない。だが19世紀末のフランスでは重荷だった。そして20世紀末のフランスでは破滅を意味した。現実が十分理解されるまでには時間がかかったが,子どもがほとんど死ななくなったこと,そして子どもを育てるにはとても金がかかるということが,やがて明らかになった。そのようなことから少子化が進み,経済的利益よりも,子どもを持つ喜びのために,子育てがなされるようになった。避妊などの医学の進歩も寄与したが,出生率の低下を促したのは,子どもを産み育てるのにかかる莫大な費用だった。かつて子どもは冨の生産者だった。だが今や養育費は顕示的消費(財力を誇示するための消費)の最たるものになった。かくして親たちは子どもを育てる必要を,10人ではなく,1人の子どもで満たすようになったのである。

ジョージ・フリードマン 櫻井祐子(訳) (2009). 100年予測:世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図 早川書房 p.89

全世界的な出生率の低下

 これは変容が本質的に良いとか悪いとかという話ではない。世界の人口構造が大きく変化している現状では,この流れを止めることはできないというだけのことだ。現在の世界における人口動態上のもっとも重要な変化は,世界的に出生率が大幅に落ち込んでいることだ。もう一度言おう。世界で最も重大な意味を持つ統計的事実は,出生率の全般的な低下である。女性が生む子の数は年々減少の一途をたどっている。これが意味するのは,単に2世紀に及んだ人口の爆発的増加が頭打ちになってきたということだけではない。女性の平均余命が急激に延びているにもかかわらず,女性が出産と育児にかける時間が大きく減少しているということなのだ。

ジョージ・フリードマン 櫻井祐子(訳) (2009). 100年予測:世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図 早川書房 p.82

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