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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「社会一般」の記事一覧

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これは無駄を省くことになるのだろうか

 しかし,アメリカの無能さがどこか特殊なのは,以上に無駄を省こうとする姿勢のせいだ。とくに官僚組織において,目を丸くするような時短主義がはびこっている。国税庁の例を見てほしい。
 毎年,税金のうち推定1千億ドルが,申告もされないままで終わってしまう。他国の中には,国内総生産の金額がそれ以下という国も少なくないはずだ。1995年,実験的な試みとして,連邦議会は国税庁に追加で1億ドルを投じ,そうした未納の税金を回収させようとした。それによって年度末までに回収できた金額は8億ドル。未納金の推定金額からするとごく一部にすぎないが,国にとっては,追加徴収にかかった経費1ドルにつき,8ドルの増収となったわけだ。
 国税局が自信をもって予測したところによれば,その試みをさらに延長して行えば,翌年には未納税金のうち,少なくとも120億ドルを国が徴収できることになり,年を追うごとにその金額は増えて行くだろうということだった。しかし,連邦議会はそのプログラムを延長する代わりに,聞いて驚くなかれ,赤字削減プログラムの一端として中止してしまったのである。私が何を言いたいか,少しはおわかりいただけたのではないだろうか?


ビル・ブライソン 高橋佳奈子(訳) (2002). ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー 朝日新聞社 Pp.133-134
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日本だけのノストラダムス

 実は99年人類滅亡説が広く信じられていたのは日本だけの現象である。その証拠に,日本では99年を過ぎるとノストラダムスのブームはあっという間に廃れてしまったが,99年滅亡悦が一般的ではなかった日本以外の国では今なお,予言の的中を恐れている人々がいるのだ。
 一例を挙げよう。同時多発テロがアメリカを襲った2001年,検索エンジン「グーグル」は1年間で最も増加した憲作キーワードのトップ20を発表した。その1位は「nostradams(ノストラダムス)」。ノストラダムスの予言の一説が同時多発テロを予言していたという噂が,ネット上をかけめぐったのが原因だった。


安藤健二 (2007). 封印作品の謎 ウルトラセブンからブラック・ジャックまで 大和書房 Pp.148-149

現金があふれているから

 日本の長期金利が低位安定しているのは,単に「国内」に「純粋なるマネー」が溢れかえっているからに過ぎない。集めた預金の運用先に悩む邦銀などが,日本政府の国債に殺到しているからこそ,日本の長期金利は低いままなのである。
 要するに,資金の需要と供給の問題なのだが,この程度の基本的認識さえない評論家たちが,日々テレビに登場し,
 「日本は事実上,財政破綻しているのですよ」
 などと,もっともらしく語る光景は,まるで出来損ないのカリカチュア(戯画)のようだ。事実上,財政破綻をしている政府が,世界最低の金利で国債発行を継続しているわけである。この時点で,もはや日本語として成り立っていない。

三橋貴明 (2009). ジパング再来:大恐慌に一人勝ちする日本 講談社 pp.275-276

ニセ蜂蜜

 蜂蜜は生産するのに費用がかかるが,コーンシロップは,まるでタダのように安い(栄養価も値段に比例する)。1970年代の蜂蜜生産業者は蜂蜜をコーンシロップでごまかすことによってぼろもうけした。450グラムあたりの蜂蜜の価格は56セントだったのに,コーンシロップはたった6セントだったのだから。けれども,これを見破る方法はすぐに開発されてしまった。そのあと粗悪蜂蜜製造者たちはもっと賢くなった。1998年,蜂蜜を大量に買い付ける北米の大手諸企業のもとに,あるインドの会社から,「蜂蜜類似物」をトン単位で提供するというファックスが届いた。コーンシロップあるいはライスシロップからなるこの類似物は「酵素的に加工」されているため,見た目も成分も蜂蜜に酷似しているという。このインドの会社は,この類似物が天然の蜂蜜をチェックするあらゆる検査にもパスすると保証し,本物の蜂蜜の代用品として使えると請けあった。このような「蜂蜜類似物」こそ,アメリカとカナダとヨーロッパの養蜂家たちが直面している問題なのだ。そして,私たちが食べているハニーローステッド・ピーナッツも,このインチキ蜂蜜を使っているのかもしれない。ある国際的な食品バイヤー用の手引きの新版には,8件の蜂蜜供給企業と14件の「蜂蜜代用品」の供給業者の名前がリストアップされている。

ローワン・ジェイコブセン 中里京子(訳) (2009). ハチはなぜ大量死したのか 文藝春秋 pp.160.
(Jacobsen, R. (2008). Fruitless Fall: The Collapse of the Honeybee and the Coming Agricultural Crisis. New York: Bloomsbury USA.)

こんなところでバーナムが

 「バースプレイス(シェイクスピアの生家)」は少なくとも同じ運命からはまぬがれた。1840年にP・T・バーナムというアメリカ人興行主が「バースプレイス」をアメリカへ船で搬送し,移動式車輪をつけて全国で公開して回ろうと考えたのだが,この企画にイギリス中が震撼し,バースプレイスを博物館兼殿堂として残すための寄付金が全国からあっという間に集まったのである。

ビル・ブライソン 小田島則子・小田島恒志(訳) (2008). シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと 日本放送出版協会 p.224

16世紀イギリスの砂糖・ビール・タバコ

 階級を問わず誰もが好んだのは,甘い味付けだった。料理の多くは甘い砂糖衣でべとべとにコーティングし,ワインにまでたっぷりと砂糖を入れることがあって,魚料理にも卵料理にも肉料理にも砂糖は使われた。ここまで砂糖好きが昂じると歯が黒くなる人も大勢いて,ふつうに暮らしていてはそこにまでいたらない人は,砂糖くらい食べてますというところを見せるためにわざと歯を黒くすることもあった。女王をはじめ金持ちの女性たちは,これに加えて肌を硼砂や硫黄や鉛----どれも多少は有毒だが,時にはかなり毒性の強いものもあった----を混ぜ合わせたもので漂白し,この世のものとは思えぬ美しさをかもし出していた。というのも,青白い肌こそ最高の美人のしるしだったからだ(となると,シェイクスピアのソネットに登場する「黒い婦人(ダーク・レディ)」は奇妙すぎる存在だといえよう)。
 ビールは盛大に飲まれ,朝食のときにも,快楽を敵視するピューリタンたちにも,飲まれた(ピューリタンの主導者ジョン・ウィンスロップがニューイングランドへ渡るとき,その船にはウィンスロップと1万ガロンのビールのほかにはほとんど何も積まれなかった)。1日1ガロン(約3.8リットル)が僧侶たちのふつうに飲む量だったというから,ほかの人がそれ以下ということはなかったと思われる。ただし,外国人はイギリスのエールに馴染めなかった。大陸から来たある外国人は「馬の小便みたいに濁っている」と不安げな言葉を残している。裕福な人々はワインを飲んでいた。それもたいていはジョッキで。
 タバコはシェイクスピアが生まれた翌年にロンドンに伝わり,最初の頃こそ贅沢品だったがすぐに広まって,16世紀の終わりにはロンドンだけでも喫煙者は7千人をくだらなかった。喫煙は嗜好品としてだけでなく,性病や偏頭痛や,なんと,口臭にまで効く治療薬としても用いられた。とくにペストの予防薬として信頼が厚かったので,小さな子供まで喫煙を奨励された。イートン校では,喫煙をサボった生徒が鞭打ちの罰を受けた時代もあった。

ビル・ブライソン 小田島則子・小田島恒志(訳) (2008). シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと 日本放送出版協会 pp.76-77

16世紀イギリスの40%はできちゃった婚

 ここで引っかかるのは,当時は結婚するときに花嫁が妊娠していても別に珍しくなかった,ということだ。ある調査によると,花嫁の40パーセントがそういう状態だったという。となると,どうしてこうあわてて結婚したのかは類推するしかない。珍しいと言えば,シェイクスピアのように18歳で男子が結婚するほうが当時は珍しかった。男性の結婚適齢期は20代半ばから後半で,女性はそれより少し早かった。といっても,人によってかなりばらつきはあったようだ。劇作家クリストファー・マーロウの妹は12歳で結婚した(そして,13歳で出産したときに死んだ)。1604年まで,承諾年齢は女子12歳,男子14歳だった。

ビル・ブライソン 小田島則子・小田島恒志(訳) (2008). シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと 日本放送出版協会 pp.57-58

インターネットによる真の脅威

 長期的に見れば,インターネットによる真の脅威は,実証に基づく検証法が確立されていない社会にデマをばらまくことだ。南アフリカ共和国のエイズに関する疑似科学「治療」を例にあげてみよう。ターボ・ムベキ大統領は,国内にいる550万のエイズ患者に抗レトロウイルス薬を行き渡らせないよう長年にわたって全力を尽くしてきた。抗レトロウイルス薬は「有害」で「有毒」だと主張し,エイズにCIAが関与しているとほのめかしてきたのだ。それによって,HIVがエイズの原因だという決定的な証拠を認めようとしない西欧の「エイズ否認論者」から全面的に支持されている。
 世界的に有名な否認論者,ピーター・デューズバーグは分子生物学者だが,エイズの予防・治療として,正しい食生活を守り,有害な薬を飲まないことを提唱している。2007年3月の『ニューヨーカー』誌によると,アメリカ政府のエイズ対策第一人者であるアンソニー・フォーシ博士が,デューズバーグの発言を聞いて,ふだんの穏健さからは想像もつかないほど怒りを爆発させたという。「これは殺人だ。どう考えても,そうとしか表現できない」。ムベキ大統領は1990年代末にインターネットでデューズバーグの説を見つけて,即座に大統領顧問団に任命している。

ダミアン・トンプソン 矢沢聖子(訳) (2008). すすんでダマされる人たち:ネットに潜むカウンターナレッジの危険な罠 日経BP社 pp.186

ワクチン・パニック

 その最悪の例は,子どもの自閉症とMMRワクチン(麻疹,風疹,耳下腺炎の3種混合ワクチン)の関連をめぐるパニックだろう。1998年,アンドリュー・ウェイクフィールドと同僚の医師たちがまとめた論文が『ランセット』誌に掲載された。自閉症と炎症性腸疾患(クローン病)を併発した12人の子どもの症例を紹介したものだ。その論文によると,自閉症は腸疾患によって引き起こされた可能性があり,さらに腸疾患はMMRワクチンの接種後に急に発症しているので,ワクチンが自閉症の原因と考えられるということだった。
 ウェイクフィールドはロンドンのロイヤル・フリー・メディカル・スクールの講師で,カナダで外科医の訓練を受けた人物である。論文が議論を巻き起こしたあと,彼は記者会見を開き,3種のワクチンを一度に接種したため子どもの免疫系に過度の負担がかかってクローン病を引き起こし,それが自閉症につながった可能性があると説明した。そしてMMR接種の安全性には「十分な不安」があるので,3つの病気に対応するひとつのワクチンを開発すべきだと主張した。それに対してロイヤル医学協会の倫理委員会の会長だったレイモンド・タリス教授は,次のように語っている。「これを無責任と呼ぶのは--彼の論文に示された証拠は,この結論を導き出せるだけのものではないから--控え目な表現以外のなにものでもない」
 ウェイクフィールドの説は,その後,数件のより大規模で厳密な調査によって否定されt。一例をあげると,医学研究協議会は5000人以上の子どものワクチン接種記録を調べ,MMRと自閉症の間に関連性がないことを確認した。それでも,心配した親,代替療法の専門家,タブロイド紙のコラムニスト,著名人,日和見主義の政治家が,口々に「ひょっとしたら(関連が)あるのではないか」と騒ぎ立て,関連性がないという明白な事実に目を向けてもらえるようになるまでに何年もかかった。
 この騒動のせいで,子どもに3種混合ワクチン接種を受けさせなかった親は数え切れない。パキスタンで,ポリオワクチンはイスラム教徒の断種をたくらむアメリカの陰謀だというデマが広まったせいで,子どもにワクチンを接種させなかった親が無数に出たのと同じだ。2002年には,ロンドン市長のケン・リビングストーンが,MMR接種を見合わせるように呼びかけた。「14ヵ月の子どもはきわめて脆弱だ。私はこの予防接種を別々に受けた覚えがある。別々に受けても深刻な反応が出るものだ。いっぺんに全部すませる必要があるだろうか?」。イギリス医学協会のイアン・ボーグル会長は,リビングストーン市長によるこの無責任な発言で「取り返しのつかない被害がもたらされた」と非難した。偶然かどうか,ロンドンでワクチン接種率が低下すると同時に,麻疹の発病率が上がった。タリスが指摘したように,麻疹はごくまれに命にかかわる場合や,脳損傷を引き起こす場合がある。数百人の子どもの命を奪いかねない伝染病なのだ。いずれにしても,回避できたはずの全国的パニックを収拾するためにNHSが費やした費用は,数百万ポンドにのぼった。

ダミアン・トンプソン 矢沢聖子(訳) (2008). すすんでダマされる人たち:ネットに潜むカウンターナレッジの危険な罠 日経BP社 pp.132-134

「選択と集中」の対立語は「ばらまき」か?

 「選択と集中」の対立語として,しばしば言われるのは「ばらまき」である。われわれは,「ばらまき」と言われると,何か悪いことをしているような気分にさせられる。しかし,「選択と集中」の対立語は必ずしも「ばらまき」ではない。対立する概念は,「多様性」であり,「寛容性」であり,「持続性」ではなかろうか。「多様性」は単に種類が多いことではなく,その1つ1つに価値を認めることである。そのためには,広い視野と見識,そして「寛容性」が必要である。そのような基盤の上に,社会と学問の「持続性」が生まれるのだと思う。「選択と集中」だけを考えていると,心の豊かさを失ってしまうであろう。

黒木登志夫 (2009). 落下傘学長奮闘記 大学法人化の現場から 中央公論新社 p.296

厳罰社会がたどり着く場所

 福祉が救うべき人々が,万引きなどの軽微な罪で立件されて,刑務所に追いやられている。セキュリティの高まりとともに福祉が後退するなかで,社会に居場所がなくなっているからだ。
 かくして,いまや刑務所が福祉施設と化している。セーフティネットから転落した人びとは,ホームレスになるか,それとも犯罪を起こして刑務所に収容されるか,という選択肢に直面しつつある。
 これは,被害者感情をスペクタクル化した厳罰社会の帰結だ。
 犯罪被害者が厳罰を求めるのは自然な感情の発露である。また,「二度と同じ悲劇をくり返してはならない」と,セキュリティを求めるメッセージにも,責められるべき点はひとつもない。だがそうした声は結局のところ,厳罰化やセキュリティの強化にのみ水路づけられている。

芹沢一也 (2009). 暴走するセキュリティ 洋泉社 p.145

暴力を避けようとすると相互不信に陥る

 社会の側でも警察の相談体制の充実や,告訴・告発の受理・処理体制の強化,あるいは法制度の整備などによって,被害者の声を積極的に受け止めるようになった。
 だが皮肉なことに,これまで潜在化していた日常的な暴力への嫌悪感が高まり,社会全体がそうした暴力を排除しようと取り組みはじめるという,それ自体はまったく肯定すべき動向が,同時に暴力のリスクに対する過剰なまでの忌避感情を育んでしまっているのだ。
 それは日常生活から暴力を遠ざけようとする,ごく真っ当な感覚の高まりが,暴力にあうリスクのコントロールへの要求水準を高め,その結果,相互不信のセキュリティ社会に帰結してしまうというパラドクスだ。

芹沢一也 (2009). 暴走するセキュリティ 洋泉社 p.123

組織が成長すると雑務が増える

 これは日本のシステムの問題ですね。組織ができると,その成長につれて雑務が多くなっていく。これはどのような組織においても当てはまることです。
 たとえばPTA。学校が新設されたとすると,PTAの仕事は,最初の頃は少なくても,年を追うごとにどんどん増えていく。広報部をつくりましょう,あの人は仕事も何もやっていないから新しい部をつくりましょうなんていうふうに,どんどん増えていく。
 PTAは本来,保護者と教職員の仲介役みたいなものでしょう。にもかかわらず全員参加が当然のように言われる。そして全員に仕事が平等に行き渡るようにするためには,雑務を増やすしかなくなる。これを削ってスリム化しようとすると,とんでもない労力がかかる。

鈴木光司・竹内 薫 (2009). 知的思考力の本質 ソフトバンク クリエイティブ p.155

問題があるなら知恵を出せ

 文明の進歩が生み出した矛盾,たとえば核兵器や環境破壊や人心荒廃を持ち出して,現代社会を批判的に見る人は少なくありません。しかし,進歩には必ずよい面と悪い面があることを忘れてはいけません。人間は,その時代その時代の理不尽と不合理を解消させ,よりよい方向へと舵取りをしてきました。ですから現代に問題があるのなら,解決するために知恵を結集すべきであって,過去を懐かしんだり将来を悲観しているだけでは,何も始まらないのです。

鈴木光司 (2009). 情緒から論理へ ソフトバンク クリエイティブ p.143-144

過去は楽園ではない

 過去が楽園だったとしたら,人間はそこにとどまり続けたはずです。けれど,そうではなかったがゆえに,人間は辛い暮らしに満足せず,社会システムを変え,ここまで進歩してこられたのです。「昔はよかった」「今の世の中はおかしくなった」などと情緒的に語る人は,この歴史が見えていません。もしくはこの点から意図的に目をそらしているのかもしれません。
 これはとても危険なことです。なぜなら「過去の方が幸せだった」とノスタルジーに浸ったり,「世も末だ」と虚無的な態度をとったりしていると,現在を克服して明るい未来を築こうというアクションにつながりにくくなるからです。未来への希望を語れない大人たちの態度は,何より,未来を担う子どもたちにとって不幸です。

鈴木光司 (2009). 情緒から論理へ ソフトバンク クリエイティブ p.142-143

「巧緻より拙速」の世界で

 さまざまな情報が瞬時に行き交うネット時代では,あまりに事象が複雑化していて,一般の人が考えるようなデジタル的「1か,0か」といった考え方や,「白か,黒か」という判断ができない問題が非常に多いのです。
 旧来型のマスコミの論理で「良いか悪いか」に集約しようとするようでは,メチャクチャな議論につながるだけです。単純化できない問題はそれこそたくさんありますが,あえて単純化しなくても,最後に「なんとなくわかった」というやり方がケース・スタディそのものと言えます。
 もはや,それができないと世界に遅れてしまいます。複雑化した事象をベスト・エフォート的な解決法を見つけて「巧緻より拙速」とばかりに突き進もうとしている世界において,「1か0かはっきりしないと,先へ進めない」などと引っ込み思案でいるようでは,目もあてられないということになるのです。

坂村 健 (2007). 変われる国・日本へ イノベート・ニッポン アスキー p.138

話の通じない相手にどうするか

 そこで「話の通じない相手」をどうするかが問題となります。
 もちろん「大人」になって,脊髄反射しかできない可哀想な人を「許す」のがいちばんいい方法です。「だいたいこういう人たちはまだ幼いんだから,大人になるまで待ってあげましょう。そのうちに分かるようになってくれるだろう」と自分に言い聞かせる大人もいます。そうできればいいけれど,なかなかできないですよね。たぶん,それは,私やあなた自身が「大人」でなくて,脊髄反射する子供な人たちと同じくらいこらえ性がなくなっているせいでしょう。
 では,許せないんだったら,どうするか。次に考えられるのは,「無視する」という行為です。こんなものを相手にしてたら,自分のほうもバカみたいだ。とにかく無視してしまおうという態度を取る。あまり,気持ちのいい態度ではありませんが,自分自身がそれほど“大人”でないのであれば,精神衛生上そういう態度も必要でしょう。
 あるいは,思いきって,単純に「報復する」という手もあります。言葉で返すだけじゃなくて,相手を殴りに行くとか,いやがらせ行為をやるということもあるでしょう。殴りに行くかわりに,ネットに匿名で誹謗中傷を書き込んだり,悪い噂を流すという手もあります。
 そして最後は,この本のテーマ----「反論する」です。


仲正昌樹 (2006). ネット時代の反論術 文藝春秋 p.51-52

アメリカの自己破産原因

 「アメリカには国民保険なんてない。民間の保険料は高すぎて,ほとんどの人が入れないんだ。自己破産の原因ナンバーワンはなんだと思う?」
 私の頭に,日本でブランド物を買いあさった挙句に自己破産をする主婦たちのことが浮かんだ。
 「クレジットカードの使いすぎ?」
 私が言うと,ジョンは首をふった。
 「それはメディアに刷り込まれたイメージだろう?実際はカード破産なんて1パーセント以下だよ。アメリカの自己破産申告の理由は2つ。医療費と離婚費用だ。」
 現在アメリカでは,医療費が原因による自己破産により,債務者や,約70万人の児童を含む扶養家族など,毎年約200万人の国民が影響を受けている。
 そして,国民の5人に1人,4500万人が医療保険に入っていない。
 「破産するのは貧乏人だけじゃないよ。その多くはごく普通の市民なんだ。想像できるかい?まっとうに働いている中流階級の一家が,ある日家族の1人が病気にかかったってだけで,高すぎる医療費請求書につぶされて破産,社会的に抹殺されるんだぜ?」

堤 未果 (2006). 報道が教えてくれない アメリカ弱者革命 --なぜあの国にまだ希望があるのか 海鳴社 p.68

自分が長生きだと思っている親から男児が生まれる

 エピジェネティック効果や母性効果の不思議について,ニューヨークの世界貿易センターとワシントン近郊で起きた9・11テロ後の数カ月のことを眺めてみよう。このころ,後期流産の件数は跳ね上がった----カリフォルニア州で調べた数字だが。この現象を,強いストレスがかかった一部の妊婦は自己管理がおろそかになったからだ,と説明するのは簡単だ。しかし,流産が増えたのは男の胎児ばかりだったという事実はどう説明すればいいのだろう。
 カリフォルニア州では2001年の10月と11月に,男児の流産率が25パーセントも増加した。母親のエピジェネティックな構造の,あるいは遺伝子的な構造の何かが,胎内にいるのは男の子だと感じ取り,流産を誘発したのではないだろうか。
 そう推測することはできても,真実については皆目わからない。たしかに,生まれる前も生まれたあとも,女児より男児のほうが死亡しやすい。飢餓が発生したときも,男の子から先に死ぬ。これは人類が進化させて生きた,危機のときに始動する自動資源保護システムのようなものなのかもしれない。多数の女性と少数の強い男性という人口構成集団のほうが,その逆よりも生存と種の保存が確実だろうから。
 進化上の理由が何であれ,カリフォルニアの妊婦が環境の危機を感じとり,それに自動的に反応したのは明らかだ。実際のテロ攻撃は遠く離れた場所で起きていたこともまた,興味深い。なお,このような現象が記録に残っているのは今回がはじめてではない。1990年に東西ドイツが統合したとき,混乱や不安がより大きかった旧東ドイツ側の新生児の男女比は女児にかたよっていた。1990年代のバルカン紛争時のスロヴェニアの10日戦争後も,1995年の阪神大震災後も,新生児を調べた研究に同様の傾向があらわれていた。
 逆に,大規模な紛争があると男児の出生率が上がるという研究結果もある。第一次世界大戦と第二次世界大戦の直後がそうだった。もっと最近の,イギリスのグロスターシャー州に住む600人の母親を対象にした研究では,自分たちは早死にしそうだと予測している人より,健康で長生きすると予測している人ほど男児を多く生んでいた。
 どうやら,妊婦の心の状態がエピジェネティックな事象または生理的な事象を引き起こし,それが妊娠状態と男女の出生率を調整しているらしい。いい時代には男児を多く。つらい時代には女児を多く。では,エピジェネティクスの時代は?

シャロン・モアレム,ジョナサン・プリンス 矢野真千子(訳) (2007). 迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来るのか 日本放送出版協会 p.214-215

外見ではなく

 一流科学誌『ネイチャー・ジェネティクス』は先ごろ,「肌の色というような外見や自己申告にたよらず,遺伝子型の分析を通してさまざまな人類集団を眺めていくほうがはるかに有益だ」という論説を載せたが,この主張には大いにうなずける。人種の差や特徴をあげつらってどうのこうの言うのはもうやめにして,それよりも,これまでに得た知識を医学の進展に役立てることに目を向けようではないか。これまでに得た知識とは,「特定の人類集団は特定の遺伝的遺産を共有しており,その遺伝的遺産はそれぞれが暮らした環境に適応するようそれぞれの淘汰圧を受けた結果だ」ということだ。

シャロン・モアレム,ジョナサン・プリンス 矢野真千子(訳) (2007). 迷惑な進化 病気の遺伝子はどこから来るのか 日本放送出版協会 p.87

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