読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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アドルフ・ヒトラーは国家社会主義運動を始めるにあたって,ドイツ国民が超自然の力を信じやすいという特性を利用した。ナチスのシンボルである鉤十字は,それまでも世界各地で,幸運のお守りから豊穣の祈りまで,いろいろなシンボルに使われてきた。赤,白,黒の党カラーは,オカルトを基本としたマニ教の祭司の外衣に使われたものだ。ナチスのエリート兵士がつけた”SS”の文字は,謎めいたルーン文字風にデザインされており,ナチスの強制収容所の将校たちはどくろマークの記章をつけた。
こういったシンボルの多用は,ひとえに党幹部の信仰を反映したものだった。ナチス親衛隊の恐るべき隊長ハインリヒ・ヒムラーは,ナチスドイツ内で二番目に権力を持っていたが,自分は十世紀のドイツ王,ハインリヒ一世の生まれ変わりだと信じていて,就寝中に王と話ができると言い張った。彼は1937年に王の遺骨を発掘し,精霊の発出を行った後で,それをまたクウェドリンブルク聖堂の地下室に埋葬し直した。王の命日である6月2日には,毎年聖堂の地下室で真夜中の儀式を行った。
デヴィッド・フィッシャー 金原瑞人・杉田七重(訳) (2011). スエズ運河を消せ:トリックで戦った男たち 柏書房 pp.96
ヒトラーの雇った占星術師についてはほとんど知られていないが,そういうチームがあったことは驚くに値しない。魔術や超常現象は,古くからドイツの歴史の一部に組みこまれていた。十六世紀には神聖ローマ帝国の三百の領邦で,十万人以上の人々が魔法を使ったかどで,拷問を受け火刑に処せられた。拷問のひとつに,“祈りの腰掛”という,とがった鋲をびっしり打った長方形のベンチを使うものがある。囚われたものたちはこのベンチの上にひざまずかされ,耐え切れなくなって罪を告白した。一度罪を問われると,抵抗しても無駄だった。バンベルク市の役人は,娘に宛てて,身を案じてくれた看守の勧めにしたがって,ありもしない罪を告白してしまった旨の手紙を書いている。
「とにかく自分が魔術を使ったと認めない限り,あらゆる拷問が続く。耐えられるはずがない……嘘でもいいから罪を告白したほうが身のためだ」そう看守に言われたという。
デヴィッド・フィッシャー 金原瑞人・杉田七重(訳) (2011). スエズ運河を消せ:トリックで戦った男たち 柏書房 pp.94-95
よく日本人は宗教に対して無頓着で,特定の宗教を信じていない,あるいは無宗教といわれる。だが,キリスト教の長い歴史を持ちながらも近代合理主義的な科学を生み出してきた西洋人と比較してみると,日本人の多くは無自覚のうちに魂の不変を信じ,魂が物に宿るというアニミズムが浸透している。つまりオカルトブームには,日本人独自の民族性が色濃く反映されているのである。
人間というものは,物質的に目覚ましい進歩を遂げても,精神的にはなかなか変わらないものなのだろう。特に日本人に根強く残る不可視な領域,つまり霊の世界とでもいうべきものに対する信心はまったく変わっていないのではないだろうか。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.232-233