1998年2月,イギリスのテレビ局,チャンネル4が放映したテレビ・シリーズ『テレビ・ディナー』のある回を観ていた視聴者たちは,愕然とした。視聴率さえ取れるなら何でもありというテレビの風潮の最も不快な例のひとつと言えそうなこの番組に出演したのは,愛嬌があって憎めない有名人シェフ,ヒュー・ファーンリー・ウィティングストールである。娘インディ・モー・クレブス(生命エネルギー回路の御仁とは赤の他人である)の誕生日を家族とゲストで祝いたいというロージー・クリアのために,特別素敵な創作料理を提供しようというわけだ。ファーンリー・ウィティングストールはクリア婦人の胎盤をフライにし,パテを作って,フォカッチャに載せて供した。夫のグストールはクリア婦人の胎盤を17回もお代わりしたが,ゲストたちはそれほど夢中にはなれなかったようだ。これを観ていた視聴者たちは,トイレへ,電話へと走った。チャンネル4には抗議が殺到したうえに,イギリス放送基準委員会から「多くの人々にとって不快極まりないと思われる番組」と,きついお叱りをちょうだいした。一般の人々がそれほど動転したのはなぜか?何がそんなにまずかった?なぜ,道徳的に衝撃を受けたのか?数年後,自分のウェブサイト『リバー・コテージ』に掲載したインタビューで,ファーンリー・ウィティングストールは問題の原因を社会のスーパーセンスにあったと見ている。
ブルース・M・フード 小松淳子(訳) (2011). スーパーセンス:ヒトは生まれつき超科学的な心を持っている インターシフト pp.263
(Hood, B. (2009). Supersense: Why We Believe in the Unbelievable. London: HarperCollins.)
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