読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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研究者は,セロトニン,テストステロン,オキシトシンといったホルモンの行動への影響を判断するために,トロリー問題を利用してきた。最後通牒ゲームも同じ役目を果たしている。
ある実験で,セロトニン濃度が高い人は,ほかの人が不公平だと見なす申し出を受諾する可能性が高いことがわかった。ビールとサンドイッチで食事をしながら労働組合のリーダーと交流する必要に迫られたら,サンドイッチに厚切りチーズを挟むといい。チーズにはセロトニンが豊富に含まれているからだ。経営陣が利益の大半を懐に入れていると信じている労働者は,自分が損をしてでも上役の評判を落としてやろうと考える。つまり,罰を加える方法がそれしかなければ,自分を傷つけるのも厭わない。セロトニンにはこうした衝動を抑える働きがある。一方,テストステロンには寛容さを減じる効果がある。女性のほうが男性より気前のいい申し出をするのは,これが一因かもしれない。また,オキシトシンは正反対の働きをする。
デイヴィッド・エモンズ 鬼澤忍(訳) (2015). 太った男を殺しますか?「トロリー問題」が教えてくれること 太田出版 pp.240-241
細かなところは能力によって違うが,全体的なパターンは同じだ。頻繁に訓練することが,その訓練によって負荷のかかる脳の領域の変化に結びついていく。脳は与えられた課題に必要な機能を実行する能力を高めるように,配線を組み替えることで負荷に適応していく。訓練が脳に及ぼす影響についての研究から学ぶべき基本的教訓はこれに尽きるが,知っておいて損はない情報は他にもいくつかある。
アンダース・エリクソン ロバート・プール 土方奈美(訳) (2016). 超一流になるのは才能か努力か? 文藝春秋 pp.81
実は人間とは,動物とは,視聴覚嗅覚をはじめとしてとてつもなく高度なセンサーの塊だが,そこで感知するほとんどの情報を「無視」することで,活動が可能になっているとされる。このことを僕はロボットや人工知能の世界で言う「フレーム問題」という言葉で学んだが,この聞きなれぬ言葉を極めて簡略化すれば,人は最も直接的で発達したセンサーである「目」に入る情報ですら,そのほとんどを無視していて,この無視の機能を再現しない限り「人工知能制御のロボットは歩くこともできなくなる」というものだ。
鈴木大介 (2016). 脳が壊れた 新潮社 pp.96-97
食器の色も,味覚に大きな影響を与える。たとえば,ホットチョコレートは,白や赤のカップよりも,茶色やクリーム色のカップで飲むほうがおいしい[ピクラス・フィッツマン, 2012]。またコーヒーは,透明なカップよりも白いカップで飲んだほうが,こくがあるように思われる。なぜならコーヒーは白いカップに注いだほうが色が濃く見えるが,色が濃いほど味も濃く感じられるからだ。
同じソーダ水を,色の異なる複数個のグラスに注ぐと,清涼感の度合いがグラスによって違うように感じる。青のグラスで飲んだ場合が,いちばん渇きが癒されるように思われ,続いて緑・赤・黄の順となる[ゲガン, 2003]。
皿を選ぶときには,先に述べた同時対比の概念が,料理を引き立てることを知っておこう。ニンジンは青い皿(補色にあたる)に盛りつけると,よりおいしそうに見える。
もしも太りたくないならば,料理の色から最も離れた色の皿を使うことをおすすめする。たとえばスパゲッティ・ボロネーゼの場合,赤い皿を使うと多めに,白い皿であれば少なめに盛りつけがちになる。逆にライスならば,白い皿にはたっぷりと,濃い色の皿には控えめによそいたくなるだろう。
ジャン=ガブリエル・コース 吉田良子(訳) (2016). 色の力:消費行動から性的欲求まで,人を動かす色の使い方 CCCメディアハウス pp.103-104
この6回シリーズを書いて演じた経験から,私は創造性について重要な原則を学んだ。不安になればなるほど,創造性は失われる。遊び心がなくなって,精神の広がりがなくなる。恐怖は思考を縮こまらせ,冒険するのをためらわせ,そのせいで独創的な発想ができなくなる。しかし,コメディは斬新でなくてはならない。古いジョークは面白くないからだ。こうして私は,「コメディ書きのためのクリーズふたつの規則」に到達したのだ。
規則その1:早めにパニックを起こしておく。恐怖はエネルギーの源だ。そのエネルギーを使う時間をたっぷり確保しよう(この規則は試験にも当てはまる)。
規則その2:思考は気分に従う。不安は不安な思考を,悲しみは悲しい思考を,怒りは怒りの思考を生み出す。だから,面白いことを思いつきたければ,リラックスした陽気な気分を目指そう。
ジョン・クリーズ 安原和見(訳) (2016). モンティ・パイソンができるまで―ジョン・クリーズ自伝― 早川書房 pp.440
ジョークを「理解」するにも,同様の知的飛躍が必要だ。ジョークを組み立てるうえでむずかしいのは,それを「理解」するのに必要な飛躍の幅を測ることだ。頭のいい聴衆に対して,噛んで含めるように過度にわかりやすくしてしまうと,あまり面白いとは思ってもらえない。しかしそれとは逆に,飛躍の幅をあまり広くしてしまうと,今度はつながりが見えなくなってまったく笑ってもらえない。
ジョン・クリーズ 安原和見(訳) (2016). モンティ・パイソンができるまで―ジョン・クリーズ自伝― 早川書房 pp.185
以上の実験からわかったこと。悪態をつく,つまり侮蔑語・卑猥語を口にすることで痛みへの耐性が高くなる。ただし,そうした言葉をふだん濫用していると効果が弱まる。その理由は悪態が攻撃感情を高め,闘争/逃走反応を引き起こすからであって,痛みの破局化ではないと思われる。悪態をつくことで,痛みの感じ方がより強烈になっているわけではないからだ。同様に,痛みに反応して汚い言葉を口走る行為は脱抑制と見なすのも無理がありそうだ。脱抑制行動では痛みの経験は変化しないはずだが,私たちが行なってきた実験では,悪態は疼痛管理の手段になっていることが明らかだった。したがって悪態は,痛みに耐えるのを助けてくれるという隠れた効用があることがわかった。
この効用は研究テーマにこそなっていないが,出産を経験した女性や,看護師,助産師なら誰でも知っていることだ。私たちが一連の研究で論文を発表したあと,オンライン辞書に「ラロケジア(lalochezia)」という新語が登場した。ストレスや痛みをやわらげるために,卑猥な四文字語を使うこと,という意味らしい。もしあなたが激しい痛みに襲われ,医学的な処置をすぐに受けられないときは,悪態をうまく活用してその場をしのいでほしい。だけど病院に搬送されたら口をつつしんだほうがいい。医療機関でそんな言葉をまき散らすのはエチケット違反だし,思わぬ注目を浴びることになる。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.101-102
闘争/逃走反応とは人間の根源的なストレス反応で,行動を底あげする瞬間的な変化で構成されている。なかでも重要なのが活動エネルギーの急速な増大だ。敵から攻撃されたとき,応戦するにしても逃げだすにしても,エネルギーが充分あれば迅速に行動できて,生存の可能性が高くなる。具体的にはアドレナリンが大量に分泌され,心拍数が上昇する。瞳孔が拡張して呼吸も速くなり,痛みへの耐性が上がって,汗をかく。最後の汗をかくというのが,科学の視点から見ると興味ぶかい。発汗して皮膚が湿り気を帯びると,電気を通しやすくなる。これは指に電極を貼りつけて測定すれば簡単に測定でき,「皮膚電気反応」と呼ばれる。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.