読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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そこから判明したのは,他人との深い関わりを精力的にこなす人々は,より双方向型の会話をする傾向にあり,結果としてソーシャルネットワーク上でのアイデアの流れに重要な役割を果たしているという点だ。これは私が世界で最も生産性の高い人々を観察してきた結果とも一致している。彼らは常に他人と関わり,新しいアイデアを集めており,こうした探求行為が良いアイデアの流れを生み出すのである。
アレックス・ペントランド 小林啓倫(訳) (2015). ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 草思社 pp. 51-52
アイデアの流れにおいても同じことが起こる。社会的学習では,行動を示す人物(ロールモデル)と示される人物の間で多くの交流が発生し,行動を示される人物が他人の影響を受けやすい(受容性が高い)場合,新しいアイデアが受け入れられて行動変化が起きる可能性が高くなる。他人からどの程度の影響を受けるかは,ロールモデルが自分と近い人物で,新しい行動が有益なものになりそうか,ロールモデルに対して信頼感を抱いているか,新しい行動とこれまでに学習した行動が一貫したものであるかなど,いくつかの要因によって決まる。広告業界の人びとはよく「バイラルマーケティング」に期待するが,アイデアの流れるスピードは極めて遅くなる場合もあるのだ。
アレックス・ペントランド 小林啓倫(訳) (2015). ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学 草思社 pp. 49
1年後に1万円をもらうか,1年と1週間後に1万100円をもらうか,という選択なら,多くの人は1年と1週間後にお金をもらうことを選ぶ。しかし,今日1万円もらうか,1週間後に1万100円をもらうか,という選択なら今日の1万円を選ぶ。どちらも同じ1週間あたり1パーセントという高金利であるにもかかわらず,今のことになると忍耐力が低下するのだ。健康を考えてダイエットや禁煙を来週からするという計画を立てることはできても,来週になると,その計画を先延ばししてしまうというのも現在バイアスの例である。
大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 187
迷路の問題を135人の高校生に,計算問題(2桁の数字の足し算)を232人の大学生に解いてもらって,競争的報酬制度を選択する程度が,性別や兄弟姉妹の構成で異なるかを検証した。まず,性別については,男性の方が女性よりも競争的な報酬制度を選ぶ傾向が高いことが明らかにされた。これは,多くの先進国で共通に観察されることだ。
興味深いのは,兄弟姉妹の構成の影響である。高校生のサンプルでも大学生のサンプルでも,姉をもった男性は,他の男性よりも競争的報酬を好まないことが明らかになった。また,高校生のサンプルでは,弟をもった女性は,競争的報酬を他の女性より好む傾向が見られた。さらに,大学生のサンプルでは,姉をもった女性が他の女性よりも競争的報酬を好むという傾向が観察された。
大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 149
コインを投げて表が出たら2万円,裏が出たら何ももらえないというギャンブルか,確実に1万円もらうという選択肢があれば,多くの人は確実に1万円もらう方を選ぶ。しかし,最初に2万円もらっておいて,コインの裏が出たら2万円を返却し,表が出たら返却しなくてもよい,というギャンブルか,確実に1万円支払うという選択であれば,多くの人はコイン投げに挑戦する。2万円をもらう前から考えれば,最初の選択問題と後の選択問題は全く同じであるにもかかわらず,2万円をもらった状態が参照点になってしまうと,損失を確定することを嫌ってギャンブルしてしまうのだ。
損を嫌うということは,危険なことをしてでも,努力して参照点にしがみつきたいという行動を私たちに起こさせる。これが行動経済学で損失回避として知られていることである。
大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 102
私たちのリスクに対する認識は,そもそも「合理的」なものではない。めったに発生しないリスクを過大に認識し,ほぼ確実に発生するリスクを過小に認識するという特性があることは,行動経済学でプロスペクト理論としてよく知られている。だからこそ,滅多に当たらない上に平均的にも損をすることがわかっている「宝くじ」を買う人が多い。本人は当たると思っているという意味で,リスク(落選確率)を過小に,当選確実を過大に認識しているのである。
大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 85
感情が私たちの意思決定に与える影響についての多くの研究結果をまとめたアメリカ国立衛生研究所(NIH)のフェラーらの論文に基づいて,怒りと意思決定の関係を紹介してみよう。怒ってしまうと,私たちは,不確実なことでもより確実に生じるように感じ,周囲のことを自分で統制できるように感じるという。未知の危険や恐ろしい危険をあまり感じなくなり,その結果,リスクのあるものでも受け入れるようになるのだ。また,問題の責任が他人にあるように感じる傾向があるともいう。
対照的なのは,恐怖の感情であり,不確実性を大きく感じ,自分で統制している感覚が減少する。そのため,リスクに対して回避的な行動をとりやすくなる。一方で,直感的な意思決定よりも論理的意思決定を用いる傾向が強くなるという。
関連した感情として,悲しみを感じると,自分で統制できる感覚を減らすうえ,利益志向的になり短絡的視野をもつようになる。また,他人を信頼しなくなり他者との協力も減ってしまうという。
大竹文雄 (2017). 競争社会の歩き方 中央公論新社 pp. 68