読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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つまり。この実験結果を見るかぎりでは,高信頼者のほうが実は他人が本当は信頼できるのかどうかに対してセンシティブで,その人に何か問題がありそうだと思うと,すぐに評価を変える柔軟性を持っているということになります。つまり,単なる「お人好し」どことか,高信頼者はシビアな観察者であるというわけです。
山岸俊男 (2008). 日本の「安心」はなぜ,消えたのか:社会心理学から見た現代日本の問題点 集英社インターナショナル pp.153-154
2009年にヒューレット・パッカード社は,さらに踏み込んだ調査をヨーロッパで行った。
9カ国において,従業員の代表に「中立的な意見」に関するアンケート,つまり回答者にとっては,一見してまったく興味のわかない質問を行ったのだ。解答用紙は色違いで四種類(青・黒・緑・赤)作成され,その意見に関して,「賛成」「反対」あるいは「どちらでもない」を記入するようになっていた。
結果は非常に興味深いものだった!「どちらでもない」(否定でも肯定でもない)という回答は,青の用紙の47パーセントと黒の用紙の43パーセントを占め,緑の用紙の28パーセントと赤の用紙の19パーセントより格段に多かった。この傾向は,フランスではさらに強くなる。「どちらでもない」が青の用紙では63パーセント,黒の用紙では51パーセントになったのだ。
さらにこの調査からわかったのは,過激な意見と赤との関係である。赤の用紙では,賛否にかかわらず極端な意見が29パーセントを占めた。これは黒の用紙の10パーセントと比べると,3倍近いことになる。
だが,この結果で最も驚かされるのは,緑の用紙を用いた回答者の半数以上(53パーセント)が,提示された文章に賛同していることだ。黒の用紙では36パーセントにすぎない。緑は人を納得させる力が非常に強い色だと言えるだろう。
ジャン=ガブリエル・コース 吉田良子(訳) (2016). 色の力:消費行動から性的欲求まで,人を動かす色の使い方 CCCメディアハウス pp.82-83
悪態は言語能力の欠如という思いこみにとどめを刺したのが,マサチューセッツ・カレッジ・オブ・リベラル・アーツ(MCLA)の心理学者チームが最近発表した研究だ。ここでは言葉の全般的な能弁さと,悪態の能弁さを比較している。まず前者を調べるために,アルファベットの特定の文字で始まる単語を,1分間にできるだけたくさん書きだすテストを行なった。書いた単語が多いほど,言語スキルが高いことになる。悪態のほうも同様に,1分間に思いついた悪態をたくさん書き出してもらった。
2つのテストの成績をくらべたところ,言語全般の得点が高い人は悪態も点が高く,前者の成績が悪い人は悪態の成績も悪かった。このことから,悪態は言語能力の低さ(語彙の貧しさ)を示しているどころか,むしろ高度に言葉を操れる人が,最大の効果をねらって用いる手段だと言えるのではないだろうか。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.89-90
1.社会的悪態――侮蔑の意図はない
(例)I didn’t know what the fuck I was wearing.(うわ,あたしってばひどい格好)
2.不快表現の悪態
(例)Oh shit I’m getting lost.(くそっ,道に迷っちまった)
3.侮蔑的悪態
(例)The people on night fills are arseholes.(夜勤の連中はアホばかりだな)
4.様式的悪態――発言にニュアンスをつける
(例)Welfare, my arsehole.(生活保護ってやつね)
科学的な分析によって,悪態を口にする状況はこのように4種類存在することがわかった(私としては,様式的悪態は社会的悪態に含めたいところだ)。あと習慣的悪態というのも追加できそうだ。最初は社会的な状況で発していたものが,本人のボキャブラリーに組み込まれ,大した理由がないのに連発してしまうというものだ。汚い言葉を意味もなく矢つぎばやに発することが多いゆえに,悪態は知性や言語表現力の欠如に結びつけられることが多いが,話はそれほど単純ではない。むしろ逆の可能性を示唆する研究結果もある。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.86
酒を飲むと異性がセクシーに見えてくる。いわゆる「ビール・ゴーグル効果」だ。昔から知られていたこの現象を,初めて科学的に記録したのがグラスゴー大学の心理学者チームだ。とはいえ彼らの研究を「科学的」と呼ぶのは,過大評価の感なきにしもあらずだ。研究者たちは大学内に何か所かあるバーに出向き,酔っぱらった学生たちに顔写真を見せて,1~7点の範囲で点数をつけてもらっただけ。ただそれでも,科学的調査の体裁はいちおう整っている。それで結果はというと,異性愛志向の適量飲酒者(アルコール摂取量が6単位まで)では,異性に対する評価が高くなった。酒を飲んでいる女性は,飲んでいない女性よりも男性の顔写真を魅力的だと評価したのだ。男女を入れかえても同様だった。相手に魅力を感じることは,関係を築く第一歩だろう。したがってこの調査もまた,酒が人間関係の促進剤であることを物語っている。酒が入ると社交的になるのは,相手がすてきに見えてくるからだということも,この調査からわかる。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.70