どのような診断テストであっても,当然ながら「偽陽性(病気でないのに,病気であると診断される者)」や,「偽陰性(病気であるのに,病気でないと診断される者)」が,ある程度の割合で存在する。しかしそれは,検査の利用法とのかねあいで考察されるべきものだ。たとえば,HIV検査のように大規模に実施する検査では,血清陽性者を見逃さないために,できる限り偽陰性を減らすことが望ましい。その際に,ある程度の擬陽性を許容することになる。そのような検査の次に,陽性と判断された者たちだけを対象に,費用のかかる,より精密な診断法を実施して,偽陽性を除くのだ。その結果,病気でないのに病気であると診断された者も安堵する。
しかし,自閉症の検査の場合,そのような二次検査は,これもまた不確実な臨床検査を除いて存在しない……。自閉症は人間関係の問題でもあるので,このようなきわめて曖昧な検査結果から生じる予測が,子どもを自閉症にしてしまうリスクがある。つまり,「高いリスク」をもつと見なされる子どもは,両親たちの不安が向けられる対象になってしまう。極端な場合,自閉症ではないのに子どもが自閉症になってしまうかもしれない……。自閉症の検査は,予測には役立つとしても,従来の生体検査とはかなり性格が異なるのだ。
ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.42-43
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