セルフ・ネグレクトの高齢者は変化を嫌います。必要以上の物に囲まれて生活していますが,それによって安心感もあるのです。そのため,物が一気に捨てられてしまうことによって不安を与えてしまうことになります。
慎重に1つ1つ,捨ててもよいかを聞きながら行うことはすでに述べましたが,ここからが大事なところです。
「捨ててよい」と本人が判断したからといって,すぐに捨てないことです。実は後になって「やっぱりあれは必要だった」ということも多いのです。そのときに,捨ててしまっていると,戻してあげることができません。一度決断してしまうと,取り返しのつかないことになると思うと,その後の片付けが消極的になり,進まなくなります。捨てるものを分けては置きますが,すぐにゴミとして処分してしまうのではなく,しばらく様子をみて本当に必要がないことが再度確認できたら,捨てるようにします。
最初にこの慎重なプロセスを踏むことで,安心して片づけることや物を処分することができるようになり,その後はぐっとスムーズに作業が進むことが多いのです。例えば,「この部屋はあなたに任せます」とか「入院している間に片付けておいて」などと,信頼されてしまえば,その後の片付けは一気に進みます。
岸恵美子 (2012). ルポ ゴミ屋敷に棲む人々:孤立死を呼ぶ「セルフ・ネグレクト」の実態 幻冬舎 pp.172-173
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