読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
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『ノストラダムスの大予言』は,昭和オカルトブームにおけるビッグバンだった。
その本が出版された1973年は,オイルショックにより戦後の高度経済成長において初めての経済危機に直面し,小松左京による9年がかりの大作『日本沈没』が爆発的にヒットしていた。日本の次は世界とばかりに,女性週刊誌のルポライターで小説家志望の五島勉が,辞書を片手に友人から借りた洋書のノストラダムス研究本を独自に解釈して仕上げたのが,『ノストラダムスの大予言』であったという。清水一夫著『トンデモ ノストラダムス解剖学』(データハウス/98年)によれば,その友人とは,オカルト関連書籍の翻訳家として著名な南山宏であり,洋書とはヘンリー・ロバーツとスチュアート・ロブの2冊という。のちに五島は,それほどのベストセラーになるとは思っていなかったとも語っている。それでも,日本ではほとんど知られていなかったノストラダムスをこれほど有名にしたのは,すべて彼の功績だろう。
さらに,1999年に人類が滅亡するという予言は五島独自の解釈であったが,その明瞭さゆえに大ブームを巻き起こし,多くの日本人にトラウマのごとき強烈な印象を残すことになった。実際,『ノストラダムスの大予言』以降,滅亡の日とされた99年まで,人類滅亡への恐怖を煽る終末論が,そのときどきの世相や流行を反映しながら再生産され続けたのだ。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.205-206
Mr.マリックの超魔術が,ユリ・ゲラーのスプーン曲げを奇術として模倣して打ち破り,プラズマ学の権威である大槻義彦教授が,独自のプラズマ理論でUFOなどの超常現象を論破していた。70年代からテレビで人気を博していた宜保愛子が,霊能力者として大きくブレイクしたのもこの時期だった。UMA捜索隊のロマンは『川口浩探検シリーズ』(TBS系)としてバラエティ化していた。
そんな80年代を打ち破るように,大霊界の大ヒットをきっかけに第二のオカルトブームが日本を襲ったのだ。しかし,その後の展開は新興宗教が多く生まれ,95年,オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こり,日本のみならず世界をも震撼させた。朝の満員電車で毒ガスであるサリンを散布するという非情な行為に,多くの人々が憤った。
そして再び,オカルトブームは静まることになる。ゼロ年代に突入してから,江原啓之がテレビで人気となり,スピリチュアルという名前でオカルトブームを再来させる。また,インターネットの普及とともに,オカルトは都市伝説や陰謀論と名前を変えて,現代へその血脈をつないでいる。
それでも,70年代のオカルトブームが蘇らせた日本の心霊の世界は,形を変えながらも,21世紀に根強く残っているのだ。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.169-170
コナン・ドイルも含めて,あまりにも心霊の世界を信じてしまっている人たちは,疑わしいと思える妖精写真であっても,自分たちが信じるものの実在を証明してくれることに役立つならば,とりあえずは肯定してしまう傾向がある。もちろん,写真は真実を記録するものという一般の人々の思い込みも相まって,写真こそが最新の技術に裏打ちされた超常現象の科学的な証拠であると信じられたのだ。その意味では,人は写真の中に,自分が見たいと思っているものを投影し,発見してしまうものなのだ。だからこそ心霊写真は,現代の心霊ブームの大きな原動力となってきたのだ。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.156
もうひとつ,心霊写真が生まれた背景として,19世紀後半から20世紀前半にかけて,電気,電波,磁気,X線など,次々に新しい科学現象が発見され,心霊現象や霊の世界など,これまで謎とされてきた領域も解明されるのではないかと大いに期待されたこともあった。その当時,人間の魂が不変と考える心霊主義(スピリチュアリズム)がイギリスを中心に盛んになり,オカルティックなものと科学の最先端が不思議な相関関係を作っていた。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.151
74年に出版された中岡俊哉編『恐怖の心霊写真集』(二見書房)は,絶大なる影響力を持ち,中岡の同年の著書『狐狗狸さんの秘密』(二見書房)も大ヒット。彼こそが日本の心霊ブームのキーパーソンであったことは疑い得ないだろう。中岡は,僕らの日常に偏在する霊を何気ない記念写真の中から見つけ出し,そんな心霊写真こそが心霊現象の証であるとアピールしたのだ。
宇宙人やネッシーは海外から輸入されたものだが,心霊現象は,僕らの日常にすでに存在していた。中岡は,怪談話などで古くから語られてきたものを心霊写真という現代的な物証を示して,蘇らせたのだった。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.147
また一方で,70年代の日本のオカルトブームにおいて四次元は,超能力,UFO,心霊現象までをも説明する言葉として乱用されることになる。たとえば,子供が神隠しにあって行方不明になったという怪奇現象の説明では,その子供は四次元の穴に落っこちたために消息がわからなくなったとされた。また,突然現れては消えるUFOについても,四次元を通って移動しているからではないかといわれた。
さらには,当時,ソ連や東欧で行われていた超能力についての科学研究が衝撃的に紹介されたときにも,超心理学(パラサイコロジー)が「四次元科学」と訳されて,広く認知された。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.106-107
アメリカにおけるピラミッド・パワーの大ブレイクの理由は,そのシンプルさにあった。とにかく,ピラミッドの形をしていれば,あらゆる効果が期待できると考えられ,数々のピラミッド・グッズが生まれることになる。巨大な瞑想用ピラミッド,頭に被るピラミッド・ハット,小さなピラミッドを複数並べたピラミッド・ジェネレーターなど,ピラミッドという形状が未知のエネルギーを集積するものとなったのだ。また,ピラミッド形は,ニュー・エイジやスピリチュアル・カルチャーの象徴的なイメージとして定着していく。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.95-96
あらためて,日本における超能力ブームを再考するならば,戦後封印されていた日本独特の精神主義が,70年代のオカルトブームとともに息を吹き返したようにも思えてならない。現代においてさえ,日本民族には強靭な精神力に裏打ちされた特殊な能力があるという考えがどこかにあるのではないだろうか。
74年のゲラーの初来日で,テレビでスプーン曲げを観たとき,日本中が敏感に反応したのは,日本独特の精神主義に響くものがあったからではないだろうか。そのような傾向は,その後のオカルトブームにおいて幾度も頭をもたげ,日本をオカルト大国に育て上げてきたように思えるのである。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.88-89
70年代,米ソの対立を背景に,世界的に大きな関心を集めていた超能力研究の世界に,スプーン曲げというニッチな得意技を引っさげて乗り込み,一気にスターダムにのし上がったのがユリ・ゲラーであった。特にテレビメディアを通じて大ブレイクした日本の超能力ブームは,まさに彼が総取りしてしまったといっても過言ではないだろう。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.72
世界的なオカルトブームが吹き荒れた70年代,物質文明批判や公害問題,ベトナム戦争反対運動などが巻き起こり,米ソ冷戦下で第三次世界大戦勃発による人類滅亡さえも危惧されていた。古代に飛来したであろうUFOが,現代に再び見られるようになったのは,人類が直面する危機を警告し,新たな叡智を授けに来たのではないか,とも考えられたのだった。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.40
思えば,筆者のような昭和40年代生まれは,子供時代からテレビや雑誌によって届けられる世界の不思議な事件や怪奇現象に散々まみれてきた。それでも,多くは誰かの証言や不鮮明な画像,伝聞や脚色を交えたもので,信じるか,信じないかという二者択一を迫られるばかり。それ以上なかなか確かめようがないものが多かった。しかし,古代文明に関するものは,その根拠となる遺跡や物証は実在するもので,その確からしさが特別な説得力を持って僕らを魅了した。
前田亮一 (2016). 今を生き抜くための 70年代オカルト 光文社 pp.33