ここで見えてきたことのなかに,地球全体の社会的ネットワークの性質に関する注目すべきヒントが1つある。少なくとも考え方としては,中間に介在するリンクをどうたどってもつながらないペアが何組か存在するとしてもおかしくはない。ウズベキスタンのジャガイモ売りとエクアドルのコーヒー農園の労働者を取り上げてみよう。たとえ長く込みいった交友関係の連鎖を通してであっても,この2人がつながっているとほんとうに確信していいのだろうか?エルデシュのグラフ理論からすると,答えはイエスのように思われる。結局のところ,60億の人々からなるネットワークの場合,エルデシュの計算が与える重要な比は,ほぼ0.000000004,つまり約10億分の4なのだ。
この数字は,もしも人々が事実上ランダムにつながっているのなら,世界のすべての人が完全に結合した社会の網構造でつながっているためには,基本的には1人がほぼ2億5000万人に1人の割合でだれかを知っていればいいことを意味している。つまり,1人が24人を知っていればいいのだ。これはけっして多い数字ではない。常識の範囲で知り合いを定義すれば,たぶんほとんどの人には優に24人を超す知り合いがいるだろう。したがって数学的には,世界じゅうのどんな2人でも,介在する社会的つながりをたどればつながってしまうのは少しも不思議ではない。エルデシュがもたらした輝かしい成果は,このことをもう少しで証明できるところまできている。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 p.52
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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