さて,橋渡しをする弱い絆が社会のネットワークにおいてきわめて重要なら,弱い絆は人脈を作るうえでも決定的に重要と考えられるかもしれない。仕事を探しているとき,親友に話したほうがうまくいく公算が大きいだろうか?それとも遠い知り合いに話したほうがいいのだろうか?有能な社会学者グラノヴェターは,答えをあれこれ考えるだけでは飽きたらず,答えを見つけるための独創的な調査方法を考案した。彼は縁故によって最近職を得た多数の人に聞き取り調査をした。それぞれのケースについて,彼らがどのようにして仕事を見つけたのかを尋ね,さらに,雇い主にコネをつける仲立ちをした縁故者とどんな関係だったのかを調べた。素朴に考えれば,強い縁故のほうが重要なはずだと思うだろう。なんといっても,友人のほうが人となりをよく知っているし,しょっちゅう会ってもいるし,親身になって助けてくれるからだ。
けれども,グラノヴェターの聞き取り調査では,対象者のうちの16パーセントが「しょっちゅう」会っている人のつてで仕事を得たのに対し,84パーセントの人は「時たま」あるいは「ごくまれに」しか会わない人のつてで就職していた。職を得た人たちがネットワークに送りだした情報——私は仕事を探していますという意思表示——は,強い絆ではなく,むしろ弱い絆を通って伝わっていくことで,より効果的に,そしてより大勢の人に広がったらしい。このことはかなりはっきりと説明できるように思われる。親友に打診するのはたしかに簡単だが,ニュースはあまり遠くには広がらない。親友たちは互いに共通の知人をもっているから,彼らの多くはすぐに,そのニュースを2度3度と聞くことになるだろう。しかし,自分が何を必要としているかを,たとえば遠くにいて1度も会ったことのない親戚など,あまり親密でない知人に広めれば,少なくともそのニュースはより広くいきわたる可能性がある。ニュースは自分が属す社会集団を閉じこめている境界を越えて流れ出し,きわめて大勢の人々の関心をひくのだ。「個人の観点からすれば,弱い絆は重要な財産なのである」とグラノヴェターは結論している。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.65-66
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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