べき乗則は,河川のネットワークのどこか一部をとって拡大すれば,そこに全体と非常によく似たパターンが現れることを意味している。言いかえれば,河川のネットワークは見かけとはちがって,それほど複雑ではないのだ。無数に生じる偶然の出来事のために,河川のネットワークはどれもその水系特有のものになっているだろう。それにもかかわらず,あるスケールで進行していることは,別のスケールで進行していることと,どんな場合でも切っても切れない関係にある。河川のネットワーク構造の背後に単純性が隠れていることを示しているこの特徴は,「自己相似性」と呼ばれており,河川のネットワークに見られるような構造を「フラクタル」と言うこともある。べき乗則の真の重要性は,なんの意図ももたない偶然によって左右される歴史の過程のうちにすら,法則にも似たパターンが生じる場合があることを明らかにしてくれる点にある。自己相似性という性質をもつがゆえに,河川のネットワークはどれもみな似たものになっている。歴史や偶然は,法則にも似た規則性やパターンの存在と,なんの矛盾もなく両立できるのである。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.159-160
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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