種間の相互作用は,食うか食われるかの関係を通して,あるいは同じ餌や棲息地をめぐる競争を通して生じる。もし,ある捕食者が他の1種だけしか食べないのなら,その捕食者にはひたすらこの種を食べる以外に選択の余地はない。このケースでは,2種間の相互作用は強いものになるだろう。反対に,もしも捕食者が他の15の種を餌にしているのなら,どの種もときどき食べるということになる。この場合,捕食者と餌である15種とのあいだの相互作用は相対的に弱いものになるだろう。さてここで,近年の気候の変化をはじめとする偶然の要因によって,捕食者の唯一の餌であった種の個体数が著しく減ったと想定してみよう。捕食者にとって食べ物を見つけるのは難しくなるが,それでも他に取るすべはない。どんなに数が減ろうとも,その唯一の餌を探しつづけなければならず,結果として,餌としている種をますます絶滅へと追いやることになる。こうなると,捕食者の個体数も著しく減少してしまうかもしれない。このような2種間の強い結びつきは,両者の個体数に危険な変動が生じる可能性を生み出している。
まったく対照的に,弱い結びつきなら,このような窮地におちいることはない,とマケンらは論じている。たとえば15の種を被食者としている捕食者を考えてみよう。理由はともかく,もし被食者のうちの1種の個体数が非常に少なくなれば,捕食者がごく自然にとる対応は,その被食者の数をさらに減少させることではなく,それ以外の14種に目を向けることだろう。結局のところ,他の14種は相対的に数が多いのだから,この14種は以前より捕まえやすくなる。注目する相手を変えることで,捕食者はひきつづき餌にありつけるし,絶滅の危機に瀕していた被食者のほうは個体数を回復することができるだろう。このように,種間の弱い結びつきは,危険な変動を防ぐ働きをしている。弱い結びつきは,生物群集における自然の安全弁になっているのだ。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.237-238
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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