皮肉なことに,たとえばエイズについて言えば,流行を押しとどめるための妙案は,現在実施されているような大勢の人を対象にした治療や教育ではなく,少数の特定の人たちにうまくねらいを定め,特に念入りに選び抜いた対策を施すことなのだ。複雑なネットワーク理論からこのことを洞察して実地に移すのは,たしかに容易なことではないだろう。けれども,少なくともこのことを理解していれば,疫学者や保健衛生に携わる人たちは基本的な作戦と戦略が見えてくるし,それが,エイズの流行だけでなく,将来新たな病気が出現したさいにも,いい結果をもたらしてくれるかもしれない。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 p.295
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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