この点に関して,プーショとメザールのネットワーク・モデルは概括的な教えを与えてくれる。それは,他の状況が同じであれば,「交換」を促すことが,富をより平等に分配するのに役立つというものだ。プーショとメザールは,リンクを伝わって移動する富の量を増やしたり,あるいはそのようなリンクの数を増やしたりしたとき,つねに平等性が増すことを発見した。逆に,投資の見返りに伴う変動の激しさと予測の不確実性を大きくすると,逆方向の作用が働き,平等性は減少した。後者の場合,「金持ちほどますます豊かになる」影響が増幅されるのだから,不平等性が増すことになんの不思議もない。もちろん,このモデルはきわめて観念的なものであり,社会政策に事細かな勧告を提供するためのものではない。それでも,明白なものもあればそれほど明白でないものもあるとはいえ,どのようにすれば富の分布を変更できるか,いくつかの非常に基本的な提言を与えてくれるかもしれない。
たとえばこのモデルから,金をまがりなりにも平等なやり方で社会に再分配することを考えるなら,(別に驚くことではないだろうが)課税が財産の格差を平準化する一助となりそうなことがわかる。結局のところ,課税はネットワークに何本かのリンクを人工的に加えることと同義で,富はそれらのリンクづたいに富者から貧者へと流れていく。課税によってパレートの法則が変わることはないが,課税によって冨の分配は多少なりとも平等なものとなり,富者のパイの分け前はそのぶん小さくなる。ちょっと意外かもしれないが,プーショとメザールのモデルは,経済全体での消費の増大を目指す経済手段であれば,どんなものでも結果的には同様の富の再分配がもたらされることを示唆する。ということは,たとえば贅沢品の販売にさまざまな税を課すのは,消費を抑えることになるため,富の格差を拡大するのに資しかねないのだ。
マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.312-313
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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