言い換えると,アメリカで何百万人もの女性に中絶を決心させた要因は,そうした人たちの子供が,もしも生まれていたら不幸せな人生を送り,たぶん罪を犯していただろうと予測する要因そのものでもあるようなのだ。
実際,アメリカでは中絶の合法化がさまざまな結果を招いた。子殺しが劇的に減った。できちゃった結婚も減ったし,養子に出される赤ん坊の数も減った(代わりに外国で生まれた赤ん坊を養子にするのがはやった)。妊娠は30%近く増え,一方出産のほうは6%減った。つまり,女性たちは中絶を産児制限の方法として使い始めたわけだ。さしずめ,荒っぽくも劇的な保険といったところなんだろうか。
もで,中絶合法化がもたらした一番劇的な効果が現れるまでには何年もかかった。犯罪への影響だ。1990年代の初め,「ロー対ウェイド」裁判の後に生まれた最初の世代が10代後半になるころ——つまり,若い男の子たちが一番犯罪者になりやすい年代になるころ——犯罪発生率は下がり始めた。この世代に欠けていたのは,もちろん,犯罪者になる可能性が一番高い子供たちだ。そして,子供をこの世に連れて来たくなかった母親の子たちが欠けたこの世代全体が成年になるにつれて,犯罪発生率は下がっていった。望まれない子供はたくさんの犯罪を引き起こしていた。中絶の合法化で望まれない子供が減ったのだ。中絶の合法化は,そうして,犯罪の減少をもたらした。
スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 pp.164-165
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