他の分野でもそうだけれど,典型的な子育ての専門家はやたらと自信たっぷりな言い方をする。彼らはどちらかの立場に与して自分の旗を高々と掲げる。この問題にはいろいろな側面があって,なんてことは言わない。条件とかニュアンスとか,そういうものの臭いがすることを言う専門家の話なんて誰も聞いちゃくれないからだ。自分が編み上げた平凡な説を通念に押し上げるなんて錬金術をやろうと思ったら,専門家はあつかましくやらなければいけない。それには一般の人たちの感情に訴えるのが一番だ。感情は筋の通った議論の天敵だからである。感情に関して言えば,そのうち一つ——恐れ——は他よりとくに強力だ。凶悪殺人鬼。イラクの大量破壊兵器。BSE(牛海綿状脳症)。幼児の突然死。専門家はまずそういう怖い話で私たちを震え上がらせる。意地の悪い叔父さんがまだ小さな子にとても怖い話をするみたいに,そうしておいてアドバイスをするから,とても聞かずにはいられない。
スティーヴン・D・レヴィット,スティーヴン・J・ダブナー 望月衛(訳) (2007). ヤバい経済学[増補改訂版] 東洋経済新報社 p.175
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