ネットでは,新参者が見当違いの質問をすること自体が忌避され,「半年間ROMれ」,つまりログを読んで必要な知識を得てから発言しろ,と言われる。そこに新たな知識を求めた人々を受け入れる寛容の精神はあまり存在しない。これら人間の争いを遥か下に眺め,知識を神のいる天に届くまで積み上げるデータベースは,人間が知識労働をするために必要な専門知識の量を極大化し,塔を登ることができる人と,そうでない人との埋めがたい差をはっきりさせてしまったのだ。
そして,高い専門性同士は,往々にして激しくその対立を引き起こす。他の専門性が持つ情報の価値を,理解できなくなるからだ。広く国民が知るべき普遍的な情報は狭くなり,共通の知識としてその教養を磨き,人としての知的誠実さを示す土壌は細りつつある。そもそも共通の知識というものが社会の中ではお手軽なものとして検索して知って済ませる構造に埋め込まれてしまっているからだ。
山本一郎 (2009). ネットビジネスの終わり:ポスト情報革命時代の読み方 PHP研究所 p.177
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