ところがアフリカは貧しい状態のまま,飢えに苦しんでいる人たちも大勢いるのに,肥料を使おうとしない。なぜなのでしょうか。
私の研究室にはエチオピアからの留学生がいるので,彼から聞いた話を紹介しましょう。
エチオピアではアメリカの財団から援助を受けて,1980年代前半,化学肥料を使って穀物をつくったことがあったそうです。これはデータ的にも生産性の如実な増加として記録されています。
ところが「たくさんできた,嬉しい」と思ったのも束の間,豊作のため現地の穀物価格が暴落してしまったのです。
アフリカの農村では輸送のための道路や港湾設備などのインフラが整備されていないので,余分にできた穀物を地域の外に運び出すことができないのです。生産した農産物はすべて地元で消費するしかありません。
その状態で化学肥料を投入して生産性が上がってしまうと,大量に余ってしまって,価格が暴落してしまうわけです。エチオピア国民がいくら貧しいと言っても,「今年はたくさん小麦が穫れたから去年よりたくさんパンを食べるか」ということにはなりません。需要が増えたとしてもせいぜい1,2割でしょう。ところが食糧品の価格は,ちょっとでも余ると一気に下がってしまいます。
肥料のおかげでたくさん収穫できたけれども,価格の暴落で逆に貧しくなってしまったエチオピアの農民は,翌年から肥料を入れるのをやめてしまったそうです。
川島博之 (2009). 「食料危機」をあおってはいけない 文藝春秋 pp.115-116
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