私の研究室にいるエチオピアからの留学生は,日本に来てから4,5年も経つので,日本人と一緒に食事をするときには,「おいしい」と言ってご飯を食べています。
しかし彼に聞いても,「エチオピアに帰ったらもちろんお米は食べません。エチオピア人が日本から援助米をもらっても困ってしまうでしょうね」と言います。彼らはそれより,「日本のような先進国と比べたら私たちは決定的に貧しいのです。他には何の技術もありません,でも穀物を作ることはできるから,穀物を増産して,余った分を日本や欧米に輸出して,そのお金で自分たちで新しい産業に投資したり,学校を建てたりしたいのです」と言います。
ところが先進国は彼らのつくる穀物を決して買おうとしません。「穀物は自分たちのところでも余っているから」と言って買おうとしないわけです。
先進国から農業技術を導入して穀物を増産しても,売り先がない限り過剰生産になって,農作物の値段が下がり,農民がよけい苦しむことになってしまいます。
本当にアフリカの人たちを助けたいと思ったら,援助する代わりに米や小麦を輸入してあげることです。その方がはるかに役に立ちます。これは別に私だけの意見ではありません。アフリカの国々の連合体であるアフリカユニオンや,開発経済学者の中でも多くの人たちが同様の指摘をしています。
ですがメディアではそうした声はほとんど紹介されません。
川島博之 (2009). 「食料危機」をあおってはいけない 文藝春秋 pp.118-119
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