大規模な機械化農業を展開して,世界一の輸出国となっているアメリカでさえ,農業をやっているより,ニューヨークで仕事をしている方が,ずっと収入が良いのです。ですから農業の保護政策は,アメリカでさえ巨額の金をかけて歴代の政権が行なっていることなのです。
しかし食糧問題を論ずる前提として,まず国民や政治家が正しい情報を知らなくてはなりません。
食糧問題の真実は,「足らない」ではなく,むしろ「足りすぎている」にあることをです。
「食糧が輸入できなくなったときに困るから」と,「食糧自給率」を高めるため,国民に「もっと米を食べましょう」と訴えたり,農家に米増産の待機体制を維持させたり,「不測の事態」に備える備蓄倉庫の拡充をしたりすることなどは,誤った農業政策であると私は考えています。
このような農業政策には,将来性がまったくありません。
いまでさえ,備蓄倉庫に貯蔵された米は毎年膨大な量になり,それを古米として処理するのに困っているのが現状なのです。来るかどうか根拠もあやふやな「食糧危機」に備えて農家に米をつくらせて,行き場のない米を備蓄倉庫に隠し,その先その米をどうするというのでしょう。
食糧危機説で国民の不安をあおりながら,農家に対しても「あなたがたが日本を救うのだ」みたいな話をしているのは,問題です。
川島博之 (2009). 「食料危機」をあおってはいけない 文藝春秋 pp.227-228
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