病気に嫌悪感を抱くのは,まちがっているわけではない。私たちの祖先は,病気を引き起こす寄生者に対して,深い恐怖を私たちにしみ込ませてきたからだ。だが一方で,寄生者は何千もの世代にわたって私たちとうまく共存してきてもいる。だから,体にダニや寄生虫がいるからといって,その生き物が異常で不自然だと考えるのは正しくない。生き物というものは,もともと傷があり,寄生虫をもち,何かにかまれたり刺されたりするものだ。破れた葉っぱがついた茎は,内臓に障害のある動物やつやのない羽毛のように,無傷のものよりもずっと自然な姿なのだ。傷のない動物や人などというのは,エッフェル塔の下に旅行者がひとりだけ立っている広告のように,理想化された虚構のものでしかない。こうした姿は,人の頭の中だけにあるもので,現実に存在するものではない。寄生虫が引き起こす病気は,私たちは本来どうあるべきで,どう暮らすべきかを示してくれる必要不可欠なものなのだ。
マーリーン・ズック 藤原多伽夫(訳) (2009). 考える寄生体:戦略・進化・選択 東洋書林 p.18
(Marlene Zuk (2007). Riddled with Life: Friendly Worms, Ladybug Sex, and the Parasites That Make Us Who We Are. Orland: Houghton Mifflin Harcourt.)
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