鳥にペニスがないことを進化の観点からどのように説明すべきか,科学者たちはこれまでずっと頭を悩ませ続け,さまざまな仮説を提示してきたが,いまだに決定的な答えは見つかっていない。謎が解明されない一因として,そもそもペニスをもつ鳥類はごくわずかなので,その一般的なメリットを予測して検証するのが難しいことがある。とはいえ,仮説の中にも興味深いものがいくつかある。たとえば,精液を入れる場所と,消化器官から排出される排泄物が出る場所が同じということは,微生物に感染する機会を減らす意味ですばやく事を運んだほうがいいので,長い歳月のあいだに鳥のペニスは消えてしまったという説がある。この説を唱えたのは,ふたりの鳥類学者,ニュージーランドのカンタベリー大学のジム・ブリスキーとカナダのクイーンズ大学のボブ・モンゴメリーだ。だが,野鳥の性感染症についてほとんど何もわかっていない現状では,これ以上詳しく検証することは不可能だと,ふたりは述べている。ニワトリが性感染症にかかるのは確かだから,野鳥はかからないと考えるのは不自然ではあるものの,単に詳しい情報がない。私には,いくつかある仮説の中では,彼らの説がいちばん説得力がある。
マーリーン・ズック 藤原多伽夫(訳) (2009). 考える寄生体:戦略・進化・選択 東洋書林 p.137
(Marlene Zuk (2007). Riddled with Life: Friendly Worms, Ladybug Sex, and the Parasites That Make Us Who We Are. Orland: Houghton Mifflin Harcourt.)
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