健康な相手や,子どもの世話をできる相手がほしいという気持ちはとても自然なことだと思うが,私たちの仮説を人間の配偶者選択に適用するのは危険だ。ひとつには,ニワシドリやヤケイ,グッピーとはちがって,人間は性行為の後も,少なくともしばらくは男性は女性のそばにいて,子どもを養うということがある。だから,なぜメス(女性)が特定のオス(男性)をわざわざ選ぶのかという問いは,人間においては,オスがメスに精子しか与えない生物ほどは問題にならない。女性が1回だけのデートで,男性のひげの発育状態を真剣に調べて,彼がマラリアに対する抵抗力があるとか,ぜんそくのような咳をするといったことを見極める必要はない。もっと長い付き合いの中で,よい生活をしているかどうかや,冗談に笑ってくれるかどうかを,彼の健康状態とともに知ることができるのだ。また,少なくとも表面上は一夫一婦制の社会となっているので,男性も同じように女性のことを調べられる。だが,いずれの場合でも,すぐれた遺伝子をもっているというのは単なる一要素にすぎない。
マーリーン・ズック 藤原多伽夫(訳) (2009). 考える寄生体:戦略・進化・選択 東洋書林 pp.197-198
(Marlene Zuk (2007). Riddled with Life: Friendly Worms, Ladybug Sex, and the Parasites That Make Us Who We Are. Orland: Houghton Mifflin Harcourt.)
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