日本の国内線と比較して,アメリカの国内線のファーストクラスのサービスはずっと簡素である。エコノミークラスとの違いはサンドイットが出るか出ないかの差ぐらい。ドリンクのサービスは好きなビバレッジ(飲み物)が1つ選べるという意味ではエコノミークラスとの差はない。一応念のために言っておくと,座席は広いけどね。
機内サービスという面で見れば,アメリカの航空会社のサービスには日本人富裕層は顔をしかめるかもしれない。日本国内ではキャビンアテンダントがうやうやしく飲み終わった紙コップを磨きこまれたしなやかな指先でやさしくつまみながら下げてくれる。ところがアメリカの機内では,
「はーい,ゴミー。ゴミは投げてねー(ちょっと大げさな訳だけど,本当にこんな感じだ)」
とキャビンアテンダントがゴミ袋を広げながら通路を往復する。プラスチックコップをゴミ袋に投げるのは,ここでは客の仕事なのだ。
それでいてアメリカの国内線の方が圧倒的に機内サービスが悪いのかというと,そうではないところが面白い。
アメリカの国内線では限られた人数のキャビンアテンダントがサービスしながら,飲み物のチョイスはエコノミークラスでも日本よりもはるかに多い。ノンアルコールの飲み物でもコーラ,ダイエットコーラ,スプライト,ダイエットスプライト,ジンジャエール,オレンジジュース,アップルジュース,アイスレモンティ,トニックウォーターそして水の中から好きなものを選べる。
ところが日本の航空会社のサービスでは,見た目のキャビンアテンダントの人数は多いわりには,1人ひとりのサービスに時間がかかって,なかなか僕のところまでサービスが回ってこない。ようやく順番が来たと思ったら,ひところは飲み物の選択肢がお茶かコーヒーかスープの3種類しかないなんて時期もあった。
よく言えば日本人が提供するサービスはとても丁寧だ。だが悪く言えば日本人が提供するサービスは生産性が悪い。
だから日本人はどうしても生産性の悪さをカバーするために,高付加価値高価格のサービスを提供するほうに走ってしまいがちになる。
そして問題は,小さなプレイヤーならばそれでも生き残れる道があるのだが,巨大な企業になってしまうと,その方向は市場を縮める死の方向に一致してしまうのだ。
鈴木貴博 (2009). 会社のデスノート:トヨタ,JAL,ヨーカ堂が,なぜ? 朝日新聞出版 pp.176-177
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