さらにこういったデータを細かく見ていくと,その比率が偏っていることに気づく。いわゆるフリーターや派遣社員など,立場の弱い労働者への分配が最小限に抑えられているのだ。だから国全体の経済は成長しているにもかかわらず,個人レベルではそれを実感できない。下流社会が形成され始めたのも,この時期であった。
このような格差が拡大する状況を見て,「日本の政治家や官僚が意図的にそう仕向けているのではないか」と考えた人も多いのではないか。格差による成長を官僚は計画したのではないか。
実はかつては僕もそう疑っていた一人だった。だがそれはどうやら間違いのようだ。
なぜなら,この時期,日本だけでなく欧米先進国の多くで同じような現象が同時に起きていたからである。弱者が増加したのは決して日本だけの現象ではなかった。むしろ経済がグローバル化した結果,日本経済が巻き込まれた現象だったのだ。
この現象の一番わかりやすい原因を求めると,資本主義が内包する以下のような根源矛盾に突き当たる。
それは,「経済成長のためには,資本主義という制度が一番向いている。ただ,その資本主義競争を突き詰めていくと,労働者への分配を低く抑えることに成功した経営者のほうが,より多くの利益を生み出すことができるようになる」という矛盾だ。
鈴木貴博 (2009). 会社のデスノート:トヨタ,JAL,ヨーカ堂が,なぜ? 朝日新聞出版 pp.211-212
PR