男と女では,何が重要で,その重要な話題を会話の中でいつもち出すかという考え方についても,ときどき大きな差が見られる。
同僚の女性からは,こんな話を聞かせてもらった。彼女はたまに兄の声が聞きたくなって電話をかけることがあるが,たいていはまともな「会話」にならないそうだ。まず最初に彼女から「そっちはどう?」と切り出すのだが,兄からの返事はたいがい「別に——」。彼女は子れを,「話すようなことは何もないよ」という意味に単純に受け取ってしまうので,自分から一方的に近況などをしゃべりまくって,結局はもの足りない気分で電話を切るのだという。
けれども,男性にとって「別に——」という返事は,会話をはじめるときの決まり文句ではないだろうか。その証拠に,会話がしばらく進んだあとで,兄はボソボソと,「また女房のやつと,ひと悶着あってさ」などと話し出すそうだ。そんな「重要な」話題をもち出すのがあまりに遅く,あまりにさりげない調子なので,彼女はまともに話につきあってあげることもなく,電話を切ってしまう結果になる。兄だって,きっともの足りなさを感じているに違いない。
男には,女の求めるものがわからず,女には「どうして男には女の求めているものがわからないのか」が,わからないのである。
デボラ・タネン 田丸美寿々(訳) (2003). わかりあえる理由・わかりあえない理由:男と女が傷つけあわないための口のきき方8章 講談社 pp.105-106
PR