文法の学習で問題になるのはその階層構造である。句の挿入や句全体の移動に関する規則もあれば,個々の単語の置換や屈折に関する規則もある。さらに単語内の要素に関する規則すらある。エルマンの研究は,このような問題がネットワークに成長要因を導入することにより解決できることを示唆する。初期状態での大まかな全体的分析が,徐々にどんどん細部に至るようになるからだ。発達心理学者のエリザ・ニューポートはこれを「少ないほど豊か(less is more)」原理と呼んでいる。ニューポートによれば,子どもたちが言語をたやすく学習できるのは,はじめはかなり大雑把に情報を処理しているからである。この大雑把な処理は時間とともに細部に及ぶようになる。スティーブン・ピンカーが指摘するように,子供たちがうまく学習するのは,彼らが言語の天才だからではなく,彼らの学習が散漫でうまく形づくられていないからだ。それは徐々に焦点が合っていく望遠鏡に似ている。最初はぼんやりと輪郭だけが見え,やがて詳細がくっきりと浮かび上がるのである。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 p.21
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