鳥類とは対照的に,人間と海中のほ乳類を除き,ほぼすべての哺乳類は音の模倣ができない。その見込すらないと言っていいだろう。テレンス・ディーコンはボストン水族館に行ったときの出来事について語っている。彼は「おい,おい,おい,さっさと出てけよ!」という大声を聞いて驚いた。それはフーバーという名の話すオットセイだった(残念だがもう亡くなった)。他のオットセイが人の声を真似しないことを考えると,フーバーはかなり変わったオットセイだったのだろう。イルカもまたたいへん真似が上手で,ほかのイルカの鳴き声をあっという間に覚えて真似てしまう。さらに人間の声を真似るのもとても上手いらしい。イルカはとても社会的な動物で,鳴き声の模倣をどうやらグループ内のイルカを見分けたり,親類かどうかを確認するために使っているようである。逆に,霊長類は基本的に視覚的な動物で,顔の知覚的認知に大変優れている。それに特化した機能を持っていると言ってよい。この能力があるからこそ空港で,それこそ何百もの顔の中から友達を見つけることができるのだ。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 p.42
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