極めて発達した手や腕のコントロール,そして正確な三次元視覚を身につけたことで,霊長類は世界とのコミュニケーションに生得的な基盤を手に入れた。手と腕の動きは大脳皮質の高次中枢でコントロールされるのに対し,発声は(完全にではないが)もっと初期の皮質下の領域でコントロールされる。これは手の動きが「意図的」であることを意味する。いわば,その場で柔軟にプログラム可能で,新奇な状況に対応できるようになっているのだ。一方,発声は大部分決まった状況に結びついている。前章で見たように,チンパンジーでさえ適切な感情状態になければ音声を発することはできず,逆に感情的に生じた音声を抑制することもできなかった。ちょうど人間が笑うことや泣くことをしばしば抑制できないのとよく似ている。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 pp.75-76
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