脳サイズの増大は水辺での暮らしとも関連するかもしれない。脳の発達には複合脂肪酸の一種,ドコサヘキサエン酸が必要である。DHAと呼ばれているものだ。この脂肪酸は発達の過程において体内で合成される。しかし,人間の赤ちゃんは自分の体内だけではこの物質の十分な量を合成できない。この不足を補うには脂肪酸を外から,つまり食べたり飲んだりして摂取する必要がある。DHAは地上の食物だけでは不足する。地上生物の食物連鎖に沢山は含まれていないからだ。しかし,面白いことに貝や魚など海の生物に多分に含まれている。子供の頃,もしお母さんに「魚は頭に良い」と言われたなら,それはまさにその通りで,お母さんは正しかった。ただし,今頃になって食べはじめてももう遅い。DHAは大人の脳を大きくはしないのだ。二百万から三百万年前に海辺で生活していたホミニンたちはDHAがふんだんに含まれている食料を採っていたに違いない。これが進化の過程でわれわれの脳を大きくした原因だったのだろう。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 p.150
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