サバンナにいる他の種が,捕食者から逃れるためにできることは感覚を研ぎすますことだけだ。鋭い感覚で敵を察知し,すばやい足で逃げるのである。またほとんどの捕食者は空腹の時だけ狩りをする。狩りも物理的あるいは身体的な手がかりに依存している。それを使って獲物にねらいをつけ,追い詰めるのだ。対照的に,ホミニンは生存のために認知的方略を進化させた。他の種が身体を使うなら,人間は頭を使うというわけだ。ホミニンの狩りでは前もって獲物の活動を予測し,危険を最小にとどめ,攻撃が成功する可能性を最大に高めようとする。トム・サダンドーフは「お腹がいっぱいになったライオンはシマウマにとってまるで怖くはないが,腹一杯の人間はおそらく相当に恐ろしいものだろう」と述べている。おそらく,このために人間には時間がないのであろう。悲しくなってしまうくらい,われわれは時間に追われている。なにせお腹が減っていなくとも,食べ物を探し求めてしまうのだから。いくら忙しくとも,たっぷり時間を使ってスーパーマーケットで買い物をしてしまうのも同じ理由だ。他の動物はもっと優雅に(あるいはダラダラと)時間を使っているように見える。そう,ネコなんかはうらやましい限りだ。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 pp.154-155
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