けれどもその頃(実は今でも同じだが),聾者の教育に手話を使うことに疑問を抱く人もいた。また,手話教育施設をなくし,「口話」学校に通うようにすべきだというひともいた(今でもいる)。この「口話主義」への動きは19世紀頃に活発で,特にアレクザンダー・グレアム・ベルのような有名人からの影響が大きかった。何しろベルは電話という人の声を増幅する発明をしたのだから,口話を重視するのは当たり前だ。1880年にミラノで開催された国際聾教育者会議で問題はさらに深刻になった。会議の席で,口話主義を推し進めることが投票の結果認められた。そして,手話は公的に禁じられたのだった。このような流れは1970年代まで続いた。結果として多くのひとが長い間ひどい被害にあったのだった。1972年にアメリカで行われた調査,およびその数年後イギリスで行われた調査で,聾者は,中学校卒業時に平均して9才程度の読解能力しか獲得できていないことが明らかになった。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 p.177
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