子供が手話を獲得する過程からも,手話の自然さがとてもよく分かる。赤ん坊の頃から手話にふれると,音声言語だけに接している子よりも,速く,しかもたやすく言葉を学ぶと言われている。事実,手話を学んだ子供が何か手話で話すようになるのは,口話を学んだ子供が単語を声に出すよりも1,2ヵ月早い。ただし,さらに詳細に分析すると,初期の手話単語は完全な単語と呼べるものではない。多少の違いがあるのだ。また,口語を喋る子も,はじめは話すよりも,ずっと頻繁にジェスチャーをするものだ。一方,二語文を話すようになると,口語を話す子供は発声を重視するように切り替わり,手話の子供は手話単語を組み合わせて使うようになる。この時点から,言語発達の過程は,音声言語でも手話言語でも基本的に全く同じになる。
手話を使う聾の両親に育てられた聾児には,「手話」でバブバブと喃語を言う段階がある。手や指を繰り返して動かす動作がこれにあたる。ちょうど,話し言葉を聞かされる健常な赤ちゃんが,「が,が,が」といった声を発するようなものだ。喃語は,「音声言語」に先立つ重要なものと一般に考えられている。しかし,この目をみはるべき結果は,喃語が,音声言語と手話のどちらにおいても「言語」の先駆けとして重要であることをはっきりと示している。また,手話に接したことのない健常児でも,喃語のようなジェスチャーをすることがある。これはジェスチャーが声を発することと同じくらい幼児期に重要であることを示唆している。その後に学ぶ言語が音声言語か手話かに関わらず,名前のある物体や行為の同定における参照の基礎となるのは初期のジェスチャーなのだ。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 pp.184-185
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