利き手と読み能力,あるいはその他の認知スキルとの関連について,もっともインパクトのある研究結果は,イギリスにおいて1万2770人もの大集団検査を全国レベルで行ったものだ。利き手は,非常に強い左利きから,非常に強い右利きまでの連続量として測定された。さらに言語能力,非言語能力,読みの理解,数学能力が検査され,利き手得点との関連を調べた。これらの検査の成績はすべて,利き手得点がちょうど中程度のところで,目立って低くなっていた。つまり,左利きと右利きの成績はおおむね似たようなものだったが,両利きの成績が悪くなっていたのである。この現象に背後にクロウらは「半球非決定性」が存在すると主張している。彼らによれば,成績が下降した両利きのところが,半球非決定が起こっているポイントだとされる。半球非決定というアイデアから,CC遺伝子型において知的障害が生ずる可能性が示唆される。しかも,クロウらの研究はその障害が言語能力に限らないことを示した。ただしこのリスクは非常に小さい。CC遺伝子型の人々でも偶然の影響により利き手が一貫するようになることが多いからだ。単に左利きと,右利きを比べた研究ではこの効果が観察されていないことも,リスクが小さいことを示している。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 p.299
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