これまで多くの研究者が,大脳半球の左右差が小さくなると魔術的な考え,いわゆる「オカルト的妄想」を信じやすくなることを指摘している。オカルト的妄想とは,透視のような超感覚的知覚,念力,あるいは宇宙からの侵略者など,常識や常識的な物理法則と一致しない現象を信じることを指す。このような信念は統合失調症のような精神疾患で見られる。統合失調症の患者はどこかの組織が彼らの心におかしな考えを植え付けようとしているという妄想を持つ。そのために,超感覚的な手段,あるいは秘密の科学技術が用いられていると彼らは主張する。しかもそれを極めて強く確信しているのだ。
両利きの人は統合失調型の性格特性を高く示すと報告されてきた。また,統合失調症の患者自身,両利きの人が多い,あるいは利き手があいまいな場合が多いとする報告もある。ティモシー・クロウはさらに「統合失調症はホモ・サピエンスが言語のために払った代償だ」とまで述べている。オカルト的妄想は大脳半球左右差と関連しているようだ。単語判断課題の結果からこれが支持されている。この課題では左と右の視野に瞬間的に単語が提示された。人間の脳は奇妙なつくりをしていて,左の視野の情報は脳の右側に送られ,右の視野にあるものは脳の左側に送られる。従って,多くの人では単語が右の視野に提示されたとき,左の視野のときより成績がよくなる。これは単語が脳の左側,すなわち言語を優位に処理する脳に送られるからである。逆に左の視野に単語が提示されたとき成績は悪くなる。これは右の脳には限られた言語能力しかないからである。実験の結果によれば,超感覚的知覚を強く信じている人は単語の判断において,予測された右視野の(脳の左半球の)優位が観察されなかった。また,オカルト的妄想の強さを質問紙で測ったところ,その評定値が高い人も同様に右視野(左半球)優位が観察されなかった。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 pp.300-301
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