だが,ここで私が区別しておきたいことは左半球と右半球の情報処理の差ではない。むしろ,左右差がある脳と左右差がない脳の区別こそが重要なのだ。私が考えるに,大能の左右差は,重要なコントロールを要する行為に関係するものだ。おそらく,階層的な処理過程の構築に関わるもので,例えば,言語や道具づくり,心の理論などに関連する可能性がある。大脳の左右差がないひとたちは迷信やオカルト的な思考を信じやすい。だがその一方で,創造的で空間能力に長けているのかもしれない。これらの両極端な性質のバランスがC対立遺伝子とD対立遺伝子が存在することによって維持されているのだろう。このバランスは個人レベルでの選択によって保たれているだけでなく,社会全体としての選択も維持に関わっている可能性もある。いわば信仰と理性の葛藤である。
マイケル・コーバリス 大久保街亜(訳) (2008).言葉は身振りから進化した:進化心理学が探る言語の起源 勁草書房 pp.305-306
PR