最初の議論に戻りましょう。脳とは何でしょう。機能的に考えた場合の脳です。ある種の認識や判断や行動命令には,脳は必ずしも必要ではない。情報処理や恒常性維持(外部環境の変化に対し身体の中の状態を一定に保つこと)は,身体のあちこちの器官で,脳とは独自にやっています。それどころか,脳の機能と考えられてきた意識を正常に維持するには,骨や筋肉やそして皮膚が必要なのです。頭蓋骨の中の豆腐のような器官と,風呂でごしごしこすられる器官とで,どちらが上位か,どちらが重要か,どちらが「こころ」をつくっているか,そういう議論が無意味に思えてこないでしょうか。
あえて言えば,絶え間なく変化する環境の中で生きている存在にとって,その境界たる皮膚の方が,生命維持のみを考えた場合,脳より上位と言うことも可能かもしれません。
傳田光洋 (2007). 第三の脳:皮膚から考える命,こころ,世界 朝日出版社 pp.101-102
PR