タイムマシンに乗って紀元前1万1000年頃の世界に行った考古学者は,南北アメリカ大陸の住民の生活ぶりを目のあたりにして,明らかに先にスタートを切って他の大陸の人びとを一歩リードしていたアフリカの住民は,1000年のうちに,初期のアメリカの住民に追い抜かれたと結論づける可能性もある。その後は,アフリカ大陸より50パーセント広い南北アメリカ大陸の大きさと,環境的な多様性がアメリカの住民により有利に作用したのかもしれない。
つぎに考古学者は,ユーラシア大陸に目をむけて,以下のように推論する可能性もある。ユーラシアは世界最大の大陸であり,アフリカを除けばもっとも長く人類が住んでいる。人類は,100万年前にユーラシアに住みつく前はアフリカに長く住んでいたが,初期人類が相当に原始的な段階にあったことを考えれば,この事実は意味がない。考古学者はまた,2万年前から1万2000年前にヨーロッパ南西部で花開いた旧石器時代後期の文化を見て,その工芸品や複雑な道具の存在から,少なくとも局地的には,ユーラシア大陸の住民は他の大陸の住民よりも先にスタートを切り,一歩リードしていたと考えるかもしれない。
最後に,考古学者はオーストラリア・ニューギニアに目をむけて,まずその小ささ(もっとも小さな大陸である)を指摘するかもしれない。そして,ほとんどが人間の住めない砂漠で覆われた地域であることや,他の大陸から孤立していること,アフリカ大陸やユーラシア大陸よりあとに人類が住みついたことなどに注目し,オーストラリア・ニューギニアでは人類の発達が遅れたと考えるかもしれない。しかし,オーストラリア・ニューギニアの住民こそ,世界のどの地の人たちよりも早く舟を作りだしたのである。彼らが洞窟内に壁画を描いた時期も,ヨーロッパのクロマニヨン人と同じくらいに早い。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 pp.73-74
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