馬は,紀元前4000年頃,黒海北部の大草原で飼いならされるのとほぼ時を同じくして,それまでの戦いのあり方を一変させている。人びとは馬を持つことによって,自分の足だけが頼りだったときよりもはるか彼方まで移動できるようになった。奇襲攻撃も可能になったし,彼方の精鋭部隊の反撃の前に引き揚げることができるようにもなった。馬は黒海周辺で最初に導入されてから,あらゆる大陸に広がっていった。そして馬は,20世紀初頭にいたるまでの6000年のあいだ,戦場における有効な武器であった。カハマルカの戦いで果たした馬の役割は,まさにこのことを如実に物語っている。第一次世界大戦まで,騎馬は陸軍の中心的な戦力であった。馬を所有していたこと,鉄製の武器や甲冑を所有していたこと,これらの利点を考慮に入れれば,金属製の武器を持たない歩兵相手の戦いにおいて,スペイン側が圧倒的な数の敵に勝ちつづけたことはさほど驚くべきことではない。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 pp.113-114
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