このように,動植物の栽培化および家畜化は人口の稠密化に直接的に貢献している。栽培化や家畜化は,より多くの食料を生み出すことによって,狩猟採集生活よりも多くの人口を養うことを可能にする。そして,食料が生産できるようになると,定住生活が定着する。これは栽培化や家畜化が社会におよぼす間接的な影響である。狩猟採集民の多くは,野生の食物を探して頻繁に移動するが,農耕民は,自分たちの畑や果樹林のそばにいなくてはならないからである。この定住生活は,出産の間隔を短くし,それがまた人口の稠密化につながっている。野営地から野営地へ移動しなければならない狩猟採集民の母親は,身のまわりのものを運びながらの行動を強いられ,幼児を1人しか連れて歩けない。次の子供は,先に生まれた子どもがみんなの足手まといにならず歩けるようになるまでは産めない。現実に,移住生活をしている狩猟採集民の女性は,授乳時の無月経や,禁欲,間引き,中絶などによって,つぎの子を産むまでに約4年の間隔をあけている。それにひきかえ定住生活をしている人びとは,子連れで移動する必要がないので,養えるかぎり多くの子供を産み育てることができる。多くの農耕社会において,出産間隔はおよそ2年で,狩猟採集民の半分である。この高い出生率は,1エーカーあたり,より多くの人びとに食料を供給できる能力とあいまって,食料生産をおこなう人びとが,狩猟民族よりもずっと高い人口密度を得ることを可能にしたのである。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 pp.127-128
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