オナガーより気性が家畜化に向いていないのが,アフリカに生息している4種類のシマウマである。彼らを荷車につなぐことができたというのが,家畜化の試みにおいてもっとも成功した例である。シマウマに荷車を引かせることは,19世紀の南アフリカで何度も試みられている。また,変わり者のウォルター・ロスチャイルド卿が,ロンドンの町をシマウマに引かせた馬車で走りまわったこともあった。しかし,シマウマは歳をとるにつれ,どうしようもなく気性が荒くなり危険になる(馬のなかに気性が荒いものがいることは否定しないが,シマウマとオナガーは,種全体がそうなのである)。シマウマにはいったん人に噛みついたら絶対に離さないという不快な習性があり,毎年シマウマに噛みつかれて怪我をする動物監視員は,トラに噛みつかれる者よりもずっと多い。また,シマウマを投げ縄で捕まえることはほとんど不可能に近い。投げ縄が飛んでくると,ひょいと頭を下げてよけてしまうのだ。ロデオ大会の投げ縄部門で優勝したカウボーイでさえ,投げ縄でシマウマを捕まえることはほとんどできないという。
つまり,シマウマに鞍をつけることはほとんど無理なのである。そのため,南アフリカで熱心に試みられたシマウマの家畜化も,しだいに関心が薄れていった。最初は見込みがあると思われたワピチやエランドを家畜化すしようとする試みが実際にはそれほど成功しなかったのも,彼らが大型で危険な動物であり,いつ攻撃的な行動に出るのか予測がつかない動物だったことが影響している。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 p.256
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