ユーラシア大陸の人びとは,たまたま他の大陸の人びとよりも家畜化可能な大型の草食性哺乳類を数多く受け継いできた。このことは,やがてユーラシア大陸の人びとを人類史上いろいろな面で有利な立場にたたせることになるが,この大陸に家畜化可能な大型の草食性哺乳類が多数生息していたのは,哺乳類の地理的分布,進化,そして生態系という3つの基本的要素がそろって存在していた結果である。ユーラシア大陸は,世界の大陸のなかでもっとも面積が広く,そのぶん生態系も多様だったので,家畜化の候補となりうる動物がもっとも多く生息していた。つぎに,南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸では,ユーラシア大陸やアフリカ大陸とは異なり,更新世の終わり頃に,家畜化の対象となりうる動物が数多く絶滅してしまった——おそらく,これらの大陸に生息していた哺乳類は,すでにかなり高度な狩猟技術を発達させていた人間集団に突然さらされるという不運に見舞われたのではないかと思われる。最後に,ユーラシア大陸には,家畜化に適した動物が,他の大陸よりも高い割合で生息していた。アフリカ大陸で群をなして暮らす大型哺乳類をはじめとする,いままで家畜化されなかった動物の特徴を詳しく調べてみると,それぞれがどうして家畜とならなかったかがわかる。トルストイは,マタイの福音書22章14節の「招かれる人は多いが,選ばれる人は少ない」という言葉も認めることだろう。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 pp.260-261
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