一般的に,1492年当時,新世界にはアステカ人やインカ人だけがたくさん住んでいたと思われがちである。しかし論理的に考えればすぐわかるように,北米にもアメリカ先住民たちが数多く住んでいた。現在でも有数の肥沃な農地が広がっているミシシッピ渓谷を中心に,人口の稠密な集団社会を形成していたのだ。これらのアメリカ先住民たちは,ヨーロッパ人征服者によって滅ぼされたわけではない。北米のアメリカ先住民社会は,ヨーロッパ人がやってきたときには,すでにユーラシア大陸の病原菌によって壊滅状態におちいっていた。たとえば,北米に最初にやってきたヨーロッパ人征服者であるエルナンド・デ・ソトは,1540年,合衆国南東部を行軍したとき,廃墟と化したアメリカ先住民の村落をいくつも見かけている。それらは,デ・ソトの行軍の2年前に大流行した疫病によって住民が死に絶え,遺棄されてしまった村落であった。デ・ソトが北米にやってくる以前に,海岸地域に上陸していたスペイン人のなかに病原菌を持っている者がいて,彼らとの接触を通じて沿岸地域のアメリカ先住民がまず感染し,そこから疫病が内陸部の先住民のあいだに広がり,スペイン人の病原菌がスペインの軍勢よりも先に米国内陸部を襲ったのである。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 上巻 草思社 pp.311-312
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