1969年に南アフリカのナミビア占領が違法だと裁定されたとき,アメリカは食料や医薬品について制裁措置をとっただろうか?戦争におもむいただろうか?ケープタウンを爆撃しただろうか?
いや,アメリカは20年間「静かな外交」をつづけていた。
その20年間も,決して波乱がなくはなかった。レーガンとブッシュの時代だけでも,南アフリカによって約150万人が周辺諸国で殺された。
南アフリカとナミビアで起こったことは忘れよう。どうしてか,それは私達の感じやすい心をゆさぶらなかったのだ。アメリカは「静かな外交」をつづけ,結局は侵略者が報酬を手にするのを許した。侵略者にはナミビアの主要港と,安全上の懸念を払拭する数々の便宜が与えられた。私たちが掲げていた原則はどこへ行ったのだろうか?
繰り返すが,それが戦争におもむく理由にならないのは,子供でも論証できる。私たちはそんな原則を掲げてはいないからだ。ところが,誰もそうしなかった——重要なのはそこなのだ。そして,当然の結論を,誰も指摘しようとはしなかった。戦争をする理由は1つもない。皆無である。
ノーム・チョムスキー 鈴木主税(訳) (2003).メディア・コントロール:正義なき民主主義と国際社会 集英社 pp.61-62
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