人類の科学技術史は,こうした大陸ごとの面積や,人口や,伝播の容易さや,食料生産の開始タイミングのちがいが,技術自体の自己触媒作用によって時間の経過とともに増幅された結果である。そして,この自己触媒作用によって,スタート時点におけるユーラシア大陸の「一歩のリード」が,1492年のとてつもないリードにつながっている——ユーラシアの人びとがこういうリードを手にできたのは,彼らが他の大陸の人びとよりも知的に恵まれていたからではなく,地理的に恵まれていたからである。私の知っているニューギニア人のなかにいるであろう,エジソンに匹敵する才能の持ち主たちは,自分の才能を蓄音機の発明に使っていない。彼らは,ニューギニアの密林で自給自足の生活を送るという,自分たちの状況に見合った問題を解決するためにその才能を使っているのだ。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 下巻 草思社 p.83
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