首長社会は,集権的に統治されている社会であり,そうした非平等な社会につきもののジレンマに陥っていたことは明らかである。首長社会は,個人で得るには費用がかかりすぎて実現不可能なサービスを提供できる。その反面,富を平民から吸い上げ,首長たちによる搾取をいとも簡単に可能にする。もちろん,どちらか一方を優先的におこなう社会もあるが,この2つは不可分に結びついており,搾取がおこなわれるか賢政がおこなわれるかは程度問題にすぎない——つまり,エリート階級が泥棒とみなされるか大衆の味方とみなされるかは,再分配された富の使い道に対する平民の好感度がどれだけかによって決まる。数十億ドルという税金を私物化したザイールのモブツ大統領は,人民にほとんど再分配しなかったので泥棒政治家である(ザイールには,ちゃんと機能する電話網すらない)。そしてモブツとは正反対に,私腹を肥やさず,税金を広く賞賛される政策に費やしたので,立派な政治家と思われているジョージ・ワシントンは,ニューギニアの村々より富が不公平に偏っているアメリカ合衆国の裕福な家系の出である。
ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰(訳) (2000). 銃・病原菌・鉄 下巻 草思社 pp.100-101
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